2012年 第29回設計競技
 『間』

 『間』が本課題のテーマである。ここで本建築設計競技の掲げるシリーズテーマ『「風土」を見る』を今一度確認してみたい。 光と風をイメージした時、心地良い種類の光と風とそうでない場合がある。
それは多くの自然現象に言えることだが、その地域の持つ特性や気候、風土を無視して快適で安らぎのある住空間は成立しない。
たとえば倫理学者・哲学者の和辻哲郎は、人間存在の構造契機としての風土論を展開し、「人間とは何か」という問いを発していった。和辻によれば人間とは単に個人の次元としての「人」だけではなく、共同的次元としての「間」が合わさったものとなる。そうした考えを土台として風土とは人間同士の結合や社会であるとされ、ここに関係性としての「間」の概念が浮かび上がってくる。  一方、フランスの地理学者オギュスタン・ベルグは、西洋人の視点から日本文化論に取り組む中で、風土学の領域を開拓するとともに「間」について深く考究した。それらは、われわれ日本人に新鮮な驚きを与えるもので、ベルクによれば「間」とはそれ自体は存在しないもの、リズムによって導かれ、かつリズムを生むものとされ、具体的には、水墨画における空白、音楽における音の間隔、伝統舞踊における静止、さらには日本人の包装趣味が例示された。「間」の概念とは、かくも多様なのだ。

 このように「間」を巡る論考は広い領域で多様かつ深遠な解釈を生んできた。さて、ここで問いたいのはその先に創造される「空間」だ。自らの設定する風土の中に見いだされる「間」は、現代社会の課題を乗り越える空間を紡いでゆけるだろうか?
文:脇坂圭一(審査員)

審査員
谷尻 誠 Suppose design office
○鈴木祥司 アトリエ祥建築設計
石川英樹 石川英樹建築設計事務所
岩月美穂 studio velocity
栗原健太郎 studio velocity
阪 竹男 阪 竹男建築研究所
佐々木敏彦 大久手計画工房
樋口 豊 竹中工務店設計部
脇坂 圭一 名古屋大学
●ゲスト審査委員 ○審査員長
入賞作品 
学生の部 応募数 61点
金賞
『水模様のつながり』
西川 博美
/日本工業大学
銀賞
『糸雨つむぐ家』
○藤江 眞美 ・ 畠山 千弘
/愛知工業大学

『生活の気配がわたしの隙間にひろがる』
大峯 竣平
/金沢美術工芸大学
銅賞
『漂うイエ』 鍋倉 健哉 /名古屋工業大学    
『間をとりもつ家』 杉本 卓哉 /名城大学    
『生時の受け皿』 小林 尭礼 /千葉大学
『Bus Stop House』 坂本 裕太 /東京電機大学    
『めくられた家』 ○荻野 克眞 ・  佐藤 康平 /芝浦工業大学  
特別賞
『かぜのま』 外村 省吾 /九州産業大学
一般の部 応募数 65点
金賞
『水の循環を補完する建築』
山崎 拓
/滋賀県立大学

銀賞
『境界のあいだ』
○岩月 亮士 ・ 三谷 裕樹
/三重大学大学院
『路地住まい』
浅田 翔大
/神戸大学大学院
銅賞
『不均質な間』 成澤 佳佑 /明治大学大学院    
『Coloring of Munmbai
〜サリーを着るように間を彩ることで住む場所が広がっていく都市』
湯原 彰一 /Studio Munmbai  
『ひとつながりのいえ』 青山 享央 /名古屋工業大学大学院  
『すみかとしての屋根』 ○丹下 幸太 ・  矢板 悟 /日本大学大学院
『間のウチガワとソトガワ』 中山 大輔 /芝浦工業大学大学院
特別賞
『戸間のある家』 北澤 諒 /竹中工務店
【応募総数126点】※○印はグループの代表者