『間』
『間』が本課題のテーマである。ここで本建築設計競技の掲げるシリーズテーマ『「風土」を見る』を今一度確認してみたい。
光と風をイメージした時、心地良い種類の光と風とそうでない場合がある。 それは多くの自然現象に言えることだが、その地域の持つ特性や気候、風土を無視して快適で安らぎのある住空間は成立しない。
たとえば倫理学者・哲学者の和辻哲郎は、人間存在の構造契機としての風土論を展開し、「人間とは何か」という問いを発していった。和辻によれば人間とは単に個人の次元としての「人」だけではなく、共同的次元としての「間」が合わさったものとなる。そうした考えを土台として風土とは人間同士の結合や社会であるとされ、ここに関係性としての「間」の概念が浮かび上がってくる。
一方、フランスの地理学者オギュスタン・ベルグは、西洋人の視点から日本文化論に取り組む中で、風土学の領域を開拓するとともに「間」について深く考究した。それらは、われわれ日本人に新鮮な驚きを与えるもので、ベルクによれば「間」とはそれ自体は存在しないもの、リズムによって導かれ、かつリズムを生むものとされ、具体的には、水墨画における空白、音楽における音の間隔、伝統舞踊における静止、さらには日本人の包装趣味が例示された。「間」の概念とは、かくも多様なのだ。
このように「間」を巡る論考は広い領域で多様かつ深遠な解釈を生んできた。さて、ここで問いたいのはその先に創造される「空間」だ。自らの設定する風土の中に見いだされる「間」は、現代社会の課題を乗り越える空間を紡いでゆけるだろうか?
文:脇坂圭一(審査員)
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