『審査総評』
   JIA東海支部設計競技は26回を数え、色々な面で転換する時を迎えました。特に大きな事は、賞金が無くなったことと公開審査になったことです。幸いにして236点もの応募を頂きました。また、この数での公開審査はスタッフの方々に多大な労力を負担頂く事になりましたが、快く了解頂き滞りのない審査を行うことが出来ました。感謝致します。さらに、コンペ事業を暖かく見守って頂いた方々にも御礼申し上げます。
今年からシリーズテーマも変わり、『風土をみる』になりました。私が提案した事から審
査委員長を拝命致しましたが、説明文は審査員・スタッフの皆さんと何度も推敲し、その都度色々な議論が行われました。我々も再度このコンペへの思いを確認出来たと思います。
さて、今回の課題である「うちとそと」は物理的に「建物と自然」という様に解釈するだけでなく、もう少し人の在り方からのアプローチを期待しました。人は個人としての存在ですが、同時に共同態としての人でもあります。その二面性が「うち」であり「そと」であり、例えば個人の区別が無くなり得た(距てなさ)家族は「うち」となります。
この意識は風土によって培われたものであり、和辻哲郎氏が言う“風土は自己了解の仕方である”ならば、その二面性を了解し、個人や社会や環境との折り合い方が風土と言えます。
今まで日本では「家」は「うち」でした。それは、個人の意思のみならず、重ねられた歴史や自然や社会という環境の中で折り合った人間の存在の仕方でした。しかし、今や「家」の意味合いは変わりつつあります。そこで、家族の現状を観察し、風土を見つめることで、あるべき「住まい」の提案を求めました。
応募案はどれも家族の現状をよく観ているものでした。しかしそれは現象として観ているだけで、風土を見つめるものは少数でした。その為か形体を操作するだけに終わった案が多く、既視感が否めません。また、風土の固有性を考察する案は無いに等しく残念に思います。その中で当選した案は、人の在り方を環境との中で何等か考察したものです。
プレゼの手法は、行き過ぎたグラフィック等は減り手書きと混在のものが増え、自然な風合いで好感が持てました。ただ、個性的な表現が陰を潜めたのは寂しく思います。
 グローバル化が進み均質化も進んでいます。歪みのない世界は、均質化でなく地域の風土と共存することかもしれません。建築は設計したものがいかに環境へ影響を及ぼすか真剣に考察すべき段階に来ました。その時の視点は、地域に固有な風土がポイントになるのではないでしょうか?皆さんと共に考えて行きたいと思います。



審査委員長 奥野 美樹



審査を終えて
  全体の印象としては「風土を見る-うちとそと-」というテーマに対し、風土はさておき「うちとそと」というテーマを掘り下げた、といった作品が圧倒的に多かった。「うちとそと」問題は、私達が建築と取り組む時に常に出てくるものであり、案を考える取っ掛かりとしては入りやすかったのかもしれない。そのなかで一概に「うちとそと」といっても色々なとらえ方があった。「うち=部屋、そと=庭」(これが1番多かったと思う)、「うち=家族、そと=社会」、「うち=個人空間、そと=他者空間」、「うち=内向きの意識、そと=外向きの意識」etc。私個人としては最後の「うち=内向きの意識、そと=外向きの意識」のとらえ方がしっくりくる。「うちとそと」は固定化された場所性をもっているのではなく方向だけを持ったベクトル上にあって、固定化されない物だと思っている。だから「うちとそと」は常に相対的にきまっていく。これに関しては色々なとらえられ方があっていいし、だからこれだけの作品が一堂に会する意味がある。ただどうしても、これは若い世代特有の自分を取り巻く世界の把握の仕方なのかもしれないが(私の世代も含め)、自分という一個人からはじまって外側にその意識を広げて行く傾向がある。(一時代前の建築家はもう少し社会的な責任を期待されていたこともあり、大きな都市、社会から一個人へと向かう志向性があったと思う。)そのなかで、「うちとそと」から「風土」というさらにスケールアップした見方にまで意識が届かないのかもしれない。実は風土は私たちの皮膚を介して外側にある世界に他ならないわけなのだけれど。そのため、作品説明内に「風土」という文字があまり見当たらなかった。これは今後の、若い世代の課題かもしれない。
 今回コンペの審査に関わり、思った事は自分の考えている事を形にする大切さである。人はそれぞれ何か「思い」(考えていること)があり、それを一生懸命形にしようとする。でも形にしてみると往々にして自分の「思い」とズレていたりする。でもそのズレは形にしてみない事には発見できない。(以外とそのズレの中に面白さを発見できる事もあったりする。)だから、たとえ格好悪くても恥じずにどんどん形にする勇気を持たないといけないと思う。そこからしか、次の突破口は探せないのだから。


ゲスト審査委員  永山 祐子