一般の部 金賞
『ソコヌケの家』

 底のない箱をずらしながら積み上げてできた集合住宅である。誰かの箱の上に占拠して暮らしているような、天井を誰かと共有しているような、そんな不思議な住宅群である。決して空間が閉じて行かず、常にどこかと繋がって行く感覚をもつ。今自分がいる場所、箱にあいた窓から見える場所、床の隙間から見える下の階のテラス、そういった見える世界と繋がっているのはもちろんの事、このスカスカとした空間では見えていない自分をとりまく外側の世界ともズルズルと繋がっているのを意識させられる。ここでの「うち」は自分が物理的にも意識的にも占拠している空間。「そと」は外部という物理的外部という意味以外に、自分が占拠していない他者の場所、あるいは誰のものでもない場所、という事になると思う。その2つがここでは曖昧にぼかされている。例えば、本来、「うち」として占有されていた天井、一部の壁は共有のものとして「そと」に開放されている。しかし、住人にとっては一続きの天井の下の空間は全て自分の部屋の延長として占拠している「うち」として認識するだろう。ここで1つの場所は状況によって多様性を持って展開していく。それを生み出す構成が単に“底をぬく”という、なんとも単純が操作で生まれていることに鮮やかさを感じた。普通は集合住宅では高い階に住みたいと思うが、見上げの情景の面白さから下の階に住みたくなってくる。底の抜けた部分から下の階の屋根にリバウンドした光が入ってくる部屋の内部もなかなかいいかもしれない。そんな風に思わず住んだらどんなだろうと想像を掻立てられた。


ゲスト審査員  永山祐子