一般の部 銅賞
『eddy house』

家の外部と内部を渦のまわりと中心になぞらえた作品である。余所である外部から内部に行くに従い家族性がグラデーションのように強まっていく様を表現している。その生活者の心象にあわせて諸室の配置と庭の開放度を計画しているところが上手い。また、外壁が内壁に移り変わり、壁の微妙な角度と長さで空間を仕切るのは深度を与えていて美しい。この心象が日本の風土で育まれたものであるなら、その文化や生活のコンテクストは何であり、どう未来とつながっていくと考えているのだろうか?簡素でよいプレゼであるが、もう少し根の部分を考察してほしかった。
           

奥野 美樹


『CRACK HOUSE』

 「うちとそと」との関係に潜む風土的な空間性を取り出して、どうテーマ化していくかが求められている中、この案は通路状の外部を抜けて内部へと切り替わる際、それまでの狭小な路地から一転、GL+4000のレベルで一室空間がのびやかに広がり、中庭も取り込みながら、外部−内部−外部と一つながりのシームレスでエンドレスな空間の提案をしている。ここでの空間の一体化抜け、重層的構成による気配感や路地的な外部の扱いなど、回遊的に連続している空間構成が優れている。さらにまた、現代の住宅を構成する家族が個別化している現状と、一方では家族のつながりを希求する社会とを、同じパッケージの中に重層化させてバランスさせており、単なる形態的風土性の再解釈だけでなく、現代への批評的スタンスも感じることができる案として、評価されよう。


鳥居 久保

『ひとつの家であること.みんなの家であること』


 個々に完結している案が多いなかで、住まい同士の間に着目した案です。それぞれの屋根がつながって出来上がる空間はとても気持ちのいい空間ですね。新しくつくられた屋根上の空間によって、新たな人々のつながりが生まれてきそうです。この屋根が延々と続く街並みを想像しているととてもわくわくしてきます。ただ、壮大な屋根の空間に対して、屋根下の提案と、既存のまちに対しての提案がなかったことが少し惜しまれます。土地の所有制度は、さまざまな問題を抱えています。そんな問題を乗り越えて、ここで完結してしまうのではなく、次々に広がっていくことを考えてほしかったと思います。そんな可能性を感じさせてくれたこの提案を今後も見守っていきたいと思います。


吉川 代助


『nature bowl』

 敷地は長屋が連なる住宅地の細長い1ロットへの提案である。敷地にはU字に湾曲した床が嵌め込まれている。U字の内側は開放された中庭空間を形づくる。U字の下部また敷地前後の間隙は内部空間や住宅設備として活用され、それらは、なだらかなU字床上に離散的に配置される。U字底面にはテーブルと掘り込まれたバスタブがある。諸室はU字床に穿たれた開口を介して結ばれる。こうして「nature bowl」は、通念としての住宅の内外を新たな内部空間として再編する。審査では、単純な方法で新たな住空間を形づくろうという建築レベル、また長屋が連続する宅地という都市レベル、双方の可能性ある提案として評価された。


向口 武司


『Case Study KOMISE』

今回の応募作品全体をみていると、課題である『うちとそと』に対しては答えているが、シリーズテーマである「風土」に答えようとしている案はほとんどなかった。この作品はそのなかで、地域の風土に根ざした提案としてほぼ唯一ともいえる案であった。青森県黒石市の中町地域は重要伝統的建築物群保存地区に指定されており、主に冬の雪に備えた「こみせ」という中間領域が通り沿いに残っている。この案は現在こみせのない通りにもこみせを延長し、敷地の奥に存在する「かぐじ」と呼ばれる裏庭を活かしながら、古い建築物と新たな施設を結びつける提案である。伝統的な都市構造を維持しながら新旧の建築を統合しようという手法は現実的であり、実際につくられてもおかしくないであろう。パッシブソーラーや雪室などによって冷暖房負荷を抑える工夫などよく考えられているが、もっとこみせやかぐじの空間によって生み出されるいきいきとした生活をメインに描いた方が魅力的だったかもしれない。


清水 裕二