学生の部 銅賞

『小さなまちの大屋根の下で』

 テーマの抽象性からか概念的な形態操作やアイデア提案が多い中、唯一ともいえる既存建築のリノベーション提案で、審査の当初から目に留まっていた。
 題材は、都市の幹線道路から一本奥の道に入ると、どこにでもありそうな既視感のつよい都市風景である。作者の言う「かつて車のインフラ」だったガソリン販売所を、オープンな地域の共有スペースにしてしまうという提案は、現実味は少々乏しいとしてもなにか胸がすーっとする気持ちよさがある。
 「うちとそと」というテーマを古典的な空間論に持ち込まずに、身近な社会の中でのパブリックとプライベートというわかりやすい着眼点で勝負したのが勝因か。「うち」であるところの居住部分に今一歩の提案性があるとなお良かった。


鈴木 達也


『伸びてゆく、個室』

 プライベートな空間を孤立させず、微妙に連続させた、気持ちのよさそうな住空間が提案されています。さりげなく聞こえる音楽、がほのかに香ってくる食事の匂い。まるでサザエさんのお家のような幸福な感覚がこの提案に感じられます。でもここには、とても狭い生活像しか見えてきません。膨大に考えられる生活のシーンの、ある一瞬を切り取ってきた写真のような空間がここにはあります。時間とともに変化していく人と、そのシーンの変化を意識してこの住まいのあり方をまとめてくれたらと思うと少し残念です。部屋同士の距離感や、外と内のバランス、開口部のつくりかたはよく考えられ、作者の真剣さがよく伝わってきます。そんな作者の今後に期待したいと思います。

吉川 代助


『”遠いようで近いもの”』

 


清水 裕二


『「うち」と「そと」をまたぐ家』

 「うちとそと」という言葉の中には、この国の持つ文化や風土から来る空間性が隠れている。作者は、その空間性を取り出すために、三角形の平面を用意し、その中で生じる空間のグラデーションを解として提示している。すなわち、この開口を持つ一つつながりの空間は、先/元においてその意味を変え、閉鎖/開放/、暗/明、闇/光、狭/広、などの、空間的な諧調を有して変化する。しかし、これらは決して西洋的な対立した概念ではなく、「うちとそと」が途切れなく融合した結果の、建築と自然とが共生する風土性がそこにはある。 この空間特性を単なるプリミティブな三角形で表現したことは鮮やかといえるが、ここで求めているものは、その先であり、将来に真に豊かなものとは一体何になるのか、日本の風土に立脚した踏み込んだ提案が欲しかった。


鳥居 久保


『おおきな「うち」、ちいさな「そと」』

 50m角の正方形の仮想街区への提案である。街区全体は巨大な大屋根が架けられ、街区は巨大な一室の内部空間と化す。街区内に離散的に配置された壁で囲まれた空間は外部空間である。つまり、通常の一戸建て住宅地の街区の内外を逆転させた提案である。巨大な一室空間には、外部空間を孕んだ壁面と独立柱が林立し、それらが個人のスペースを間仕切る。審査では、入賞作の中で唯一、都市的なスケールを扱った計画であること、また細分化した土地の私有制に対する問題姿勢が評価された。プレゼンテーションも巧みである。ただ、観念的な形態操作が先行したきらいがあり、住空間として魅力的が伝わらなかった。断面形状が家型である必要性も乏しい。そうした点が惜しまれた。


向口武志