『「屋根」と「床」』
「屋根と床」を題材にして現代におけるヴァナキュラーについて考えてほしい。
シリーズテーマである「風土」という言葉から、すぐさまバーナード・ルドルフスキーの「建築家なしの建築」が連想されるのは私だけではないだろう。全地球的な環境問題に対する意識の高まりを反映して、「風土」に根差した建築/ヴァナキュラーな建築が見直されるのは当然の流れのように思われる。
しかし、同時に「風土」の解釈は単に気候や地理などの自然環境に限定されるものなのであろうかという疑問も頭をもたげてくる。ノスタルジックに伝統的な建築や住居の復権を願っても意味はないのは明らかだ。私たちの生活が、100年前、50年前とは大きく変容してしまった中で、「風土」の意味も大きく変わっているのだから。
私たちの時代の、これからのヴァナキュラー建築を考えようとする時、まず現代における「風土」とは何かを問うてみる必要があるように思われる。「風土」の概念には、自然環境のみならず、生産技術、通信・情報技術、エネルギー、生活様式など多様な要因が包含されているはずだ。提案にあたっては、全く新たな「風土」の解釈が提示されてもよい。あるいは、伝統的な「風土」の概念こそ見直されるべきだという主張があってもよい。どのような立場で思考を展開してもよいのだが、ヴァナキュラーの原義である「その土地特有の」建築の姿を考えるのだから、具体的な「風土」を設定した提案をしてほしい。
様々な解釈が成立するであろう「風土」の中で、「屋根と床」はどのように振舞い始めるのだろうか?
文:伊藤恭行(審査委員長
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