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『奥』
「奥」の字源は篆文(てんぶん)での『奥』で、白川静氏は「・・奥とは肉を供えて祭る場所、室の西南隅がその場所とされた。ゆえに奥に奥所,深奥のところの意がある。・・」と字統で解説しています。
又、日本語の中に「奥」から派生した,奥許し,奥深い,奥床し,奥ゆかしいなどの言葉があるように、「奥」には‘場’の概念ばかりでなく、深淵な意味も含まれています。
桂離宮に代表される和風建築では、‘しきり’によってつくられた‘間’がそれぞれ固有のポテンシャルを帯び、空間的な階層性が構成されています。そして、より高位に位置している‘場’が「奥」で、その階層の高位性によって、場の持つ歴史性や精神的な深淵さを人に喚起させています。
例えば、和の遺伝qのひとつである‘折れる、違える’といった日本の伝統的な動線は、西洋のパースペクティヴの消点に向う直線的な動線とは異なり、都市や建築において複雑に変化する空間を内外につくり出し、形態に期待感や神秘性を宿させて、‘場’としての「奥」が生じています。又、床框や床柱など‘しきり’によって高位化が図られた床の間などは、場に飾られ、祈られる対象自体を主体化させています。
現代の多くの住まいは、均質で明解な空間構成がなされていますが、‘場’の持つ固有の潜在力とその階層性を喪クしています。
今日のあるべき社会像と都sや建築の姿を今一度見つめ直し、「奥」の概念が活かされた住空間の提案を求めます。
文:審査委員長 奥野美樹
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