学生の部 金賞
『クラインの家』

  学生、一般部門を合わせて考えてもこの”クラインの家“が一歩抜き出た作品であったと思う。“奥”というテーマの中で物理的な距離や動線の長さ、あるいは視界の重層性のような観点で奥行きを表現していたものがほとんどであった中、この作品はそれらとは異質な、かつ深度をもったものだ。平面だけを見ると単純で、奥行きをもったものにはとても見えない。けれどもいったんその奇妙な立断面図を見ると今までの考えとは違った見方を余儀なくされ、この建物の成り立ちを平面と立断面を行ったり来たり繰り返しながら頭のなかでイマジネーションをもって描いている自分がいる。そしてこの作品が優れているのは、その“どうなってるの?”という見るものの疑問や不思議に思う気持ちを、“不快”ではなく“快適”にしている点だ。なぜ快適なのかというとドローイングなどにしっかりとしたテクニックがあり、”表現したい“という作者の肉声が伝わってくるからだ。不思議さや疑問に思う気持ちを快適にさせているからこそ、作品に奥行きと品が存在している。そしてこの作品は最後までどこか疑問を残したまま、すべてを解明できないまま終わってしまうような気がするのだが、それがまたこの作品に永続的な、エンドレスな魅力を与えているように思う。この見るものの頭の中に広がるエンドレスな感覚こそが作者の求めていた“奥”なのでは、と捉えるのは深読みし過ぎだろうか。この不思議さはいわゆる立面図や屋根伏図をあえて載せていないところにあると思うが、さらに欲を言えばパースと写真はいらなかったと思う。この写真によって頭の中に開かれる”奥“が少し閉じてしまうような気がするからだ。そしてもっと不思議で魅力的な立断面図を大きく載せて、平面図と立断面図だけで勝負してもよかったと思う。



ゲスト審査委員  堀部 安嗣