学生の部 銀賞

『ハナレ・バナレ』

 いくつかに大きく分類される形態パターンとは異なる提案で、最後まで残った作品である。
 羊羹型の住まいを縦切りにし、離し、曲げるという3つの建築手法で、奥のある空間をつくっている。縦切りの手法は、かたい外皮からやわらかい内皮を露出させ、外気(外部)と大きな面で接触させている。その内皮は、木製と思われるやわらかい材料で、単調にならない様仕上げに変化をつけて用いている。離す手法では、2つの建築をヒューマンスケールの距離感で配置し、人々が呼応する露路空間と中庭の良さを兼ねそなえた第3の空間を生み出している。曲げる手法では、空間に磁場をつくり出している。そして、ここでは、第3の空間が磁場を常に変化させる装置となり、奥の奥を感じる空間としている。
ただ、生活感が出すぎた鳥瞰図は、奥の神秘性を減少する結果となり、金には至らなかった。
しかし、単純な操作で奥の空間を生み出す力は、秀逸である。


審査委員長 竹山 明英


『砂時計』

 “表”をパブリック空間、“裏”をプライベート空間と定義し、それを路地状に並べる。ランダムに置かれた“表”“裏”は、生活を重ねることで様々な“間”が創られる。その“間”は暮らす人々のあいだで階層性を与えられ、“奥”が発生すると解く。さらに、その“間”が囲む空間は、どの“間”からも微妙な距離を保ちながらも、中性的(パブリックとプライベートとの)で象徴的な“奥”が生まれると表現した。
武家屋敷に見られるような“表(ハレ)”“裏(ケ)”の関係や下町の露地に感じられる空間の深度(おくゆき)を上手くプランに置き換えている。抽象的な“奥”の概念を、暮らしの心理状況と隠された時間軸(言葉だけで隠し味としている)から導き出した力量を評価する。ドローリングの技術やモデル・写真の甘さはマイナス点であるが、簡潔にまとめられた秀作である。


奥野 美樹