一般の部 特別賞

『奥行・素材・経験』

 現実の建築は実に多面的で複合的なものだ。そこが他の芸術と決定的に異なることであるしそこに奥深さと面白さがある。この現実的なそして実体的な建築の奥深さをリアルに表現しているのがこの作品だといえる。プランニング、素材の選び方、温熱環境への取り組みなど、他の作品にはまったく存在しない本質的な建築のアプローチ、そして複合的な視点がある。もうこの計画で現実に建設することができるのではないかと思うほど完成度が高い。しかしそう感じれば感じるほど、この建築を実際に見てみないとわからない、というところにいってしまう。そしてさらに複合的で多面的な世界を見せてほしいと思ってしまう。今回の設計競技はあくまで限られた紙面の中だけでの表現であり、それが宿命なのだ。ここは開き直って紙一枚というステージが最大限活きて完結するような表現をするべきなのだろう。そこが残念ではあるけれども、このまっとうで本質的な建築への取り組み方は賞に値する。もし実際にこの建築が建ったらぜひその空間を体験したいと思う。

ゲスト審査委員  堀部 安嗣