一般の部 銅賞
『境界線上の奥』

和の遺伝子は、相対的な距離で奥性を認識する感覚を持っていた。折れ曲げたり、両側に挟まれた動線や、連続や繰返し、微妙な高低差、緩やかな起伏と凹み、樹木や水(流)などは、空間に深度(おくゆき)を持たせる演出手法とも言える。
 いくつかの演出手法を駆使しているのがこの提案である。極めて均質的な住空間を立体的に千鳥配置し、真中から左右に離してヴォイドなボリュームを挿入する。そのヴォイドに、人やカーテン・植栽や風雨という相対的な要因が入ると、住空間からヴォイドを見た視界の中に、レイヤー的な重なりが生じ、位置性が強められて“奥”を感じる。
 時間軸的なものは希薄だが、重層的な奥性を表現している。住居としてのプランが不明であり、階段の配置・形状は意図を弱めていて、もったいない。モデル・写真も丁寧さがほしかった。
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奥野美樹


『Depth』

このコンペは「奥」という「和」の文化的な記憶を、形態(視覚)的に新たな視点で表現することが求められていたと思います。
 テーマの「奥」は言語化された時、距離的な隔たり、明暗の相対化、表裏の位相性、精神的な深度など、対象となる事象の隠喩(メタファー)が含まれ、明確な概念化が困難で、それゆえインパクトのある「新たな視点」は残念ながら見受けられず、又審査側の評価もばらつくことになりました。
 「Depth(s?)」案は、各室を雁行的な鉤型に平面配置した、動線の「Distance」の構成のユニークさと、それに相対した各室の平面・断面プロポーションの変化によって視覚的な演出を図りながら、天窓の高さと大きさに「Depth」を象徴化させ、1つの「奥」の視点を表現していると思いました。
 フロアーラインのフラットさの検討とプレゼンテーションの密度に一工夫あれば、もう少し説得力が増したのではと惜しまれます


車戸 愼夫


『under the shade』

「奥」の定義を陰と陽の相対性からとらえ光(陽)から生まれる闇(陰)を奥とし、様々な光と空間ボリュームのバリエーションを連続させ陰と陽の強弱性を加える事で「奥」性を掘り下げて、場の違いを説いた提案は明快で表現力が有りおもしろい。室内だけではなく建物外部の影の場もやはり奥であり、位相の違った奥の定義を加え、“闇の中の光の場”と“光の中の闇の場”との相対的「奥」表現の豊かさをだしていれば、なお優れた作品となったかもしれない。
しかし空間を構成している素材感が今ひとつしっくりせず、人物表現が具象的すぎバランスをくずしたのがイラストを見たあとの余韻を失わせており、断面図等に光の有り様の表現が足りず、バリエーションをもっと神秘的象徴的表現にしてみてもよかったのではないか。こまごまと説明的になりすぎた点も象徴性のある表現を失った要因になり、今ひとつ惜しい気がするが、プレゼンテーションの力量が垣間見え頼もしい。


鈴木 祥司


『オリガミハウス』

この作品は、間口が狭く奥行きの長い鰻の寝床のような敷地に、町家のような細長いヴォリュームをGL+400の高さに浮かせて配置し、折り紙建築のように壁と屋根、床と壁を相互に内側に折り込むことで、外部空間を内部に貫入させ、細長い単一の空間内に折り込まれた空間が連続する提案である。応募作品の中には、屈曲した平面形の空間や小さな空間を入れ子状に挿入する案が多く見られた。その多くが平面的な案であったのに対し、本作品では折り込むという手法により、立体的な外部と内部の入れ子空間が提案されている。一方、変化に富んだ空間は視覚的に連続するが、屈曲して連続する空間での生活がどのような奥を生じさせるのかなど、奥に対する提案はやや希薄のように思えた。しかし、折り込むというシンプルな操作だけで立体的な空間を形づくることに着眼したこと、明るく開放的な模型による表現は評価したい。


中井 孝幸


『200mm越しの奥』

円環状のプランの中に生まれる「奥」を見出す案は複数あったが、2枚の白い壁の間隔を操作しながら、日常生活が可能となるスペースの確保と気配を伝えるのにのみ必要な幅(200mm)への絞込みを繰り返し、その中に「奥」性を生み出そうとしている提案はユニークであった。気配を感じ、気配を伝えるという一点を200mmという隙間に込めたわけだが、この気配の連鎖の中に自分もいることで、何かしら未知のものへと向かう「奥」性ではなく、主客が同等化した「奥」性を醸し出そうとしている点には関心を覚えた。また、柔らかな曲線が描くこの建築のおおらかさ、それを表現するシンプルなプレゼンテーションにも好感が持てた。ただ、最初に導かれる中庭のもつ意味に迫って欲しかったことと、もう少しランドスケープと一体的に考えられたら、ホワイトチューブの建築からもう一歩前に進めたのではないかと感じた。


小松 尚