学生の部 特別賞

『わたしとニワと遊び』

 人は多様な角度から、魅力的な顔を持ち合わせる。最もフォーマルである正面の顔を基軸とし、左右から、斜め上下から、はたまた後ろから、それぞれは個性的な魅力に溢れる。
ニワも同様ではなかろうか。床の前や居間のソファーからはニワの正面の顔を、台所の小窓や勝手口付近からはニワの横顔を望む。ニワに歩を進めれば、更に親しみ深い顔に気付く事となる。
人とニワの同化を提示した本案は、互いの魅力的な顔に、より多くの機会において巡り会える可能性を秘めている。中心となるニワを囲むべく仕切られたはずの壁がTPOに合わせ上下する。それに伴い、間取りは変化をし、生活も日々異なるリズムとなる。内外の境も変化をし、場合によって、境は取り払われすらする。
正面や横といった顔の角度を固定しない事により、日常生活は魅力を秘めた流動性を帯びる。時々にニワが輝く顔に合わせ、人は向き合って行く。逆に、人が輝く顔に合わせ、ニワは包み込む。移ろい行く旬の顔を捉え、人とニワの境は外見的にそして精神的に解き放たれて行く。究極は人がニワの顔の一部になれるの事なのかもしれない。ニワもそれを待ち望んでいるのかもしれない。
正面性、多面性の枠を超える発想に可能性を見出された、作者の今後の飛躍に大きな期待をしてしまう。

特別審査員 小川 勝章