学生の部 金賞
『マチニワ』

  「マチニワ」という提案である。完全な公共空間ではなく、しかし個人の庭というわけでもない、そのどちらでもないし、あるいはその両者にまたがるような、公共空間の提案である。廃屋となって街中に放置された元・工場が舞台。建物の窓ガラスはすべて落ち、中も外もなくなってゆく建築である。もしくは、もともと窓ガラスを入れず、もともと外も中もないような建築物であってもよかったのかもしれないが、いずれにしても、中も外もない状態がテーマになっている。植物が自生し、室内外にわたって植物がまるでジャングルのように全体を支配してゆく風景を描いた。この案のおもしろいところのひとつは、庭や公園などの外部空間の提案でなく、室内・室外という建築的定義を超えるような空間が提案されているところである。また、建築物の提案でありながら、ここで提案されている建築の姿というものは、廃墟という、ある意味で建築の寿命が終わったあとの姿である。機能とか用途とか雨よけ風除けとか防寒といった、建築が本来もつべきさまざまな役割から開放された建築が、植物によって自然化してゆき、室内という概念を失うことで、全体としてなにか不思議な自由さを獲得している。猫や鳥が気ままに横切っていき、風や雨が建物内に流れ込んでくる室内の風景には、空間というもののある原初的な魅力を感じさせる。明言されていないが、これはどこかで個人所有ではなく、多くの人々によって共有された、ある公共的空間なのであろうか、建築空間が個人所有というものからも解放された、非常な開放性を持っており、その点が多くの審査員に支持された。他方、提案が、建築物単体の室内風景の描写だけにとどまったように感じられる点が惜しまれる。

ゲスト審査委員  西沢 立衛