学生の部 銅賞

『舞い上がる水蒸気』

 建物の内にニワ空間のあるシンプルな平面が突き抜けているシンボル性の高い塔状の作品。内に向かう事が実は外に近づくというパラドックスを持ち出し、それは建物として外部には繋がってはおらず、内に向かうことは外に近づくといった、意識的な広がりを感じさせる私的な≪ニワ≫である。
タイトルに表現された意識は、≪ニワ≫から建物上部の開口に広がり、垣間見える青空、夕焼けの情景、そしてそれは内部の壁面、ガラス面を色づかせ 更なる見えぬ場所に思いを馳せる。見上げると小さく切り取られた空、夕方には塔状の建物内部は赤く染まるであろう。秋には落ち葉がはらはらと舞い降り、水を撒くと蒸発したその水が水蒸気となる。単一的な形故に、切り取られたその塔状の空間で表現されるこの庭の中でこそ、季節感・時空の流れを感じ、それは内と外の境界を無くし 精神に建築以上の存在感を現す。
庭を≪ニワ≫という精神世界に於いて。建物と庭の関係を内に閉ざした空間の中で、鉛直方向に広がりをもたせて表現しているシンプルな作品である。
ただ、内なる庭の外部との関係が希薄な事、ニワとの拘わりなど踏み込んだ考察が足りない事が残念であるが作者の将来に期待したい。

後藤 文俊


『おびのいえ』

 ニワという外部を内部に引き込み、自然と一体化したイエをつくるという手法は、応募作品に数多く見受けられた。そのような作品群のなかで、もっとも秀逸な形態操作と表現力によって、審査員の心を引きつけたのが「おびのいえ」である。
この提案は、イエと敷地境界との隙間である「わずかなニワ」を、「おび(=にわ+まど)」として、ワンルームのイエに、折り曲げ幅を変えながら取り込み、内部空間を隔てる「多様なニワ」としたものである。
ニワを内部に引き込む提案の多くが、ガラス張りの外部空間を引き込み、曖昧な境界性を狙ったものであったが、この提案では、ニワの両側の壁に巧妙に配置されたポツ窓によって切り取られた、両側の部屋と外部空間が重なり合う風景の描写が新鮮であった。壁のなかに厚さ25センチの外部が潜んでいるようでもあり、穿たれた窓が壁の内部でずれているような不思議な感覚も表現されている。
わずか25センチの外部空間が、取り込むべき風景となるのか疑問は残るものの、形態操作方法の明快さ、内部空間のスケール感、さらに、このようなイエが連続することで、かすかに繋がりをもつイエとイエの距離感などに作者の力量が感じられる。

恒川 和久


『めいろハウス』

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『2×8=180』

作者の意図を正確に伝える為に、作品中に書かれたテキストをそのまま引用する。

「幼い頃、雨上がりの庭で水溜りを覗き込んだとき、そこには空が映っていた。
 その時感じた不思議な感覚は、年月を経て全ての事象にはオモテとウラがあるということを認知するきっかけとなった。
この提案は、異なる事象を同位相に展開することによって、つまりオモテとウラを混在させることにより、高密度都市居住空間におけるニワを構築できないかという試みである。
雨上がりの、デコボコした地面のニワを180度転回させて天井につける。
水溜りの部分は孔が開いていて、外部と繋がる。
庭に開いた孔から光が降ってきて、雨が落ちてくる。
このニワは、外部と居住空間とのフィルターとして常に表情を変えながら存在する。」

空間としてのニワではなく、表裏のない限りなく薄いニワという存在に共感した。このフィルター越しに透過する光や雨は、直接人に作用し、薄いニワは絶えず人と自然の関係性を計測する媒体となる。内部にも外部にも帰属しないこの薄いニワがもたらす人の居場所の豊かさが、ニワという空間の新しい可能性を示唆しているように思う。
宇野 享


『えんがわ-ニワ-まち』

今回のテーマは、建築の内外部空間の結びつきのあり方を「ニワ」というキーワードで応募者に問うテーマでした。この案は、素直に「ニワ」によって「まち」と「家」の結びつきを表現していて、一目見たときから好感が持てる案でした。丘のように盛り上がった「ニワ」によって、「家」と「まち」をやわらかく隔てる、その単純な仕掛けによってまちと家の程よい距離感を演出し、内外空間を巧みに関係付けています。
プレゼンテーションも さわやかで明快に意図していることを伝えています。
ただ 家の模型写真は家の記号性をよく表現していますが、図面は稚拙さが気になりました。あまり細かなことを描くのではなく もう少し記号として表現されたほうが 今回の案にふさわしいと思います。
一つのアイデアを 単純にわかりやすく表現している提案は他にはなく、1次審査の見直しで残ったあと、2次審査で審査員の票を集め見事銅賞に入選しました。
小林 聡