一般の部 銀賞

『イエニワ』

 敷地の形をそのまま立ち上げた直方体のボリュームから、切妻のボリュームを欠き取ってできたヴォイドが「イエニワ」である。通常「図」として表れる「イエ=ボリューム」と、「地」として認識される「ニワ=ヴォイド」の反転を主題としている。切妻というイエを象徴する形を欠き取ることで、ニワとしてもイエとしても、地としても図としても判断可能な空間を表出したことが、この作品の面白さであり、「イエのニワ」なのか「ニワのイエ」なのかを問いかけている。かつて、R.ヴェンチューリが縁取られたヴォイドで「フランクリン・コート」をつくったように、微笑ましく意味深な作品でもある。家族にとってのニワを、「図」化することで、街のニワとしているところも面白い。
屋根の上のような個室空間と、屋根に覆われたイエニワは、ともに外部に対して断面のみが表現され境界は曖昧にされている。明快な境界線が見えないなかに、境界を見せるという手法は、秀逸であると同時に誤魔化された感も否めない。また、最上階の個室を通してニワに落ちる光は、表現上も現実的にも人工的であり、模型にみられる人工的な樹木が似つかわしいニワでもあることも意図的なのだろうか。

恒川 和久


『かきわける家』

  人は荒野をわけ入り、自らの住まう空間を獲得しようと試みた。草木を刈り、整地をし、風雨をしのぎ、必要とするものから少しずつ、空間を確保して行った。
現在の世の中では住まいを築き、ニワを付け加えるとの発想が主流である。しかしながら尊い地球や宇宙全体こそを最大そして模範のニワとして捉えるのであれば、ニワの中に住まいを確保するとの見地に立つ事が可能となる。
日常忘れてしまいがちなフロンティアスピリッツ、本案はそれを思い起こさせてくれる。吊り下げられた(竹暖簾の如く線状に加工されると云う)樹糸をかきわけ先を目指す。樹糸を切り、或いは束ねる事で生活空間を築いて行く。樹糸の存在は草木に重ね合わせられる。光、風、音、におい等が織り成す地球上での出来事を、樹糸の在り様によって、より身近なものとして体感出来る。
正に根源的な住まいであり、ニワとの向き合い方なのではなかろうか。そして敬意を込めた、地球や宇宙との向き合い方なのではなかろうか。
人が奥底に持つ本能を大切に具現化されるであろう、作者の今後の飛躍に大きな期待をしてしまう。

特別審査委員  小川 勝章