一般の部 金賞
『大きな扉のある家』
今回一般の部金賞を受賞したこの作品は、総評でも触れた内部/外部、建築/ニワといった二項対立を相対化する案のひとつとしてとらえることができる。相対化の手法として、内部/外部の境界である壁の存在をぼやかす案が多かったが、この案では、むしろ壁の存在こそが外部を内部に招き入れるデバイスとなっている。直方体の壁の1枚が扉として開くことによって、その扉と直方体の間に外部空間が滑り込んでくる。開き方が小さい場合は、内部空間に鋭い切り込みのような光を導入し、内部に外部環境がわずかに流れ込む。開きが大きくなるに従って、扉と直方体の間にはツボニワ的なスケールをもった外部空間が生まれるが、扉が近いうちは建築の一部として認識されていた外部空間が、扉が離れるにつれて次第に内部空間に対する優位性を獲得し、直方体は外部空間を眺める縁側のような場としての性格を強めてくる。その際、扉に対する認識は、建築の一部である「壁」から、徐々に外部空間に属する「塀」へと変化してゆく。この過程の中で、最初の閉じられた立方体はほとんど収納のような最小限の空間であり、外部を取り込むことによってようやく「住まい」たりえる。扉が開くにつれて、内部空間と外部空間の境界は曖昧になり、内部空間に閉じこめられていた生活は家具などのしつらえとともに次第に外部空間へと洩れだし、やがては敷地全体が生活領域となるであろう。
この作品のもう一つの特質は、扉の開き方によって、内部/外部のみならず、プライベート/パブリックの境界や、町並みに対する「建ち方」など、周辺環境や地域社会との関係性も変化することである。最初はおよそ周囲の住宅とはかけ離れたプロポーションの箱が敷地の端に建っているのだが、次第に外部空間を内包しつつ「住まい」の領域を広げて行き、最後は敷地の間口いっぱいの塀となる。この作品は、1枚の壁が動くという非常にシンプルな仕掛けによって、内部と外部、建築とニワ、プライベートとパブリックといった分節に無階調のグラデーションを生み出すことができる。シンプルであるが故に、課題への鮮やかな回答が浮かび上がるような案である。ただし、この案の大きな弱点は、巨大な扉が開閉する軌跡には大きな樹木やモノは置けないことである。せいぜい芝や低い草花であろう。現実的にはそのような問題をいくつか指摘できるであろうが、それを補って余りある魅力をもった提案である。

審査委員長 清水 裕二