建材研修会
「図面を読む人・描く人」
- 設計図と建築の値段 -

  JIA三重地域会では、2001年度から、月々の例会の時間を利用して「会員研修発表会」や「建材研修会」を開催している。これは、かねてから会員の要望としてでていたことで、「せっかく毎月集まるのに会議だけで終わるのではなく何か有意義なことをしよう。」という主旨から始まったものだ。折りしもCPD制度が動き出し、会員の研修・学習の機会を充実する必要性に迫られたのもその背景にあった。
 建材研修会では、賛助会の協力を得て建材の説明会や工場見学などをおこなう一方、会員研修発表会では、会員がそれぞれにテーマを設定して建築に関する発表会を開催してきた。
山本覚蔵会員による「品確法について考える」から始まり、水野保会員の「水野会員自作を語る」、滝井利彰会員の「城下町伊賀上野の歴史と建築」、萩原義雄会員の「ベルリン建築報告」、森本昭博会員の「私の仕事とその仲間たち」と、回を重ね、今回で第6回を数える。
 それぞれ、自ら興味あるテーマや体験談を交え、個性たっぷりの講演をしていただいた。
 今回は、木下利子会員による「図面を読む人・描く人」といテーマ。木下氏が,以前勤めていた会社で経験した建築の積算業務について具体的に話された。
 設計見積りとは、工事の設計価格を出すのが目的で、実際の施工会社がつくる見積りと違って実面積をひろう。それには設計図書をもとに数量をひろう「設計数量」と、仮設工事や予掘りなど設計図には記載されていないものを積算者が予想してひろう「計画数量」あり、その根拠として大成出版社の「建築数量積算基準・同解説」を参考にする・・・。実際に木下氏が積算したという色鉛筆でカラフルに塗り分けられた設計図を見せてもらいながらその手順や苦労談を話していただいた。
「図面を読む人」の立場から見る設計図には、「図面を描く人」が見過ごしがちな様々な問題点があるという。設計の終盤で発生した部分的な修正は、それに関連する図面を全て訂正すべきであるにもかかわらず、訂正もれがある場合がかなりある。しかも、手描きの時代であれば、訂正した場所にその痕跡が見て取れるのだが、CADの図面は訂正もれがあった場合、どれが本当の仕様なのか全くわからない。他にも、図面をレイアウトする際、CADなら納まりのいいスケールに簡単に設定できるため、1/125などの中途半端なスケールで描かれた図面に遭遇することが稀にある。見積もる側は、スケールを当たるため、非常に迷惑だという。さらに、設計者が積算者に「図面に食い違いや不備な点がなかったか?」と、確認する場合さえあるという。
皆さんにも多かれ少なかれ「身に覚えがある」ことでしょう。私にもあります。設計者は、100%の設計図を目指して日々努力しているのだが、図面で表現しきれない部分や、時間に追われた時の訂正もれはついて回る。そのために「質疑回答」というセーフティーネットがあるわけだが、それでも細かい部分の食い違いが発生する。その時、「現場でなんとかしよう」と考える。「結果が良ければいいではないか」と考える。ところが、それには常に「お金」が関わる。建築主の貴重な資金が関わる問題で、そう簡単にはいかない場合がある。
建築主から「スーパーでものを買う時は10円単位でも気になるのに、何千万何億という建築を考えていると、金銭感覚が麻痺してくる」と言われることがある。この仕事を専業としている我々は、なおさら麻痺の度合いが大きいと言わざるをえない。私も建築主に「見積りすると予算のだいたい1〜2割はオーバーするのが常です。1割くらい予備費をみておいてください。」と平気な顔で言うことがしばしばあるのだが、その1割が数百万だとすると、建築主にとっては迷惑な話だ。
部分の集積から成り立っている建築は、一つ一つの材料や工法の値段が、全体の工事費を決定するのは言うまでもなく、その材料や工法の適切な選択を任される設計者こそ大きな責任を負うことになる。これは、建築家が建築主や社会に対して有益な建築を創出する責任を負うことと同等の価値があると言っていい。「現場でなんとかしよう」と思う前に、できる限りの設計図の整合性、積算の明確性をめざして仕事をしていかなければならない。
木下氏の話を聞きながら一方でそんな思いをめぐらし、ちょっと反省した一日だった。
(村林 桂/建築デザイン研究所)

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