
左官の技
−若い職人集団の前向きな取り組みに期待−
2001.12.14 講師:稲葉 和也 氏 文明の進歩とともに、工業生産品が増え、建築の“場”から職人の“技”がどんどん姿を消してゆく。木造の住宅をひとつ例にとってみても、プレファブやハウスメーカーの製品は言うに及ばず、在来工法の家でさえ、木材のプレカットは珍しくなくなっているし、家具や建具も既製品が多くなってきた。極端にいえば、カタログで部材を集め、一部を除きさほど特別な技術を持たない作業員でも、家はそれなりに組み上がってしまう。 使い捨ての時代が終わりを告げ、建築の寿命も人間並みに長寿をめざそうとしている中、そんなものの作り方で果たしてよいものかと、考えてしまう。 元来、日本の建築は大工と左官を筆頭に、職人技の結集が生んだたまものだった。今でも、残された歴史的建築物の探訪は、その職人技を見に行くといっても過言ではないだろう。 今回は、文化財など特別な例を除けば、いまや貴重な存在になりつつある、伝統的な技法を伝える「左官職」を現在に生かしている、稲葉和也さんを講師に招き、第6回の森羅万象匠塾は開催された。 稲葉さんは、左官のお父さんを継ぐ2代目としてこの道に入られた。昔ながらの技法を守るだけでなく、若手のグループをつくり、新しい左官の可能性にも挑戦したいと、勉強会なども開いていると聞く。 スライドで見る稲葉さんの仕事は多彩で、厳しい施主の注文に時には頭を抱える様子など、講演は左官の手作業を直に感じることができる内容だった。紹介された作品は、氏の地元伊勢のものが多く、とくに内宮前の「おはらい町」周辺にその現場は集中していた。 この地方の人ならなじみのある、「赤福本店」の赤い竃(かまど)もその作のひとつで、毎年新しく塗り替えているとのこと。会員から出る、材料は何かとか、製法はなどの質問に細かく丁寧に答えていく中で、色については、やはり企業秘密があるらしく、答えられずに笑顔で詫びを言われた。 他にも、いくつかの竃を見せていただき、左官の仕事だとわかってはいても、その作り方を初めて聞いたものにとって、今さらながらその「鎧(こて)技」に感心させられた。 他に「三和土」「珪藻土」「漆喰」などについての質問があり、その特長や施工の注意事項など、身振り手振りをまじえて、詳しく説明をされた。その中で「大津磨き」をうまく仕上げるコツを聞かれたとき、それはもう“職人の勘”としかいいようがないと答えられたのが、とくに印象的だった。自然の材料を、その時の温度や湿度を計算に入れ、ベストの状態に持っていくのは、やはりマニュアルどおりにはいかない、経験のなせる業としかいえないだろう。 左官といえば、今やブロック積みやタイル張りなど本来の仕事から遠ざかった仕事が多くなり、家づくりの花形としての左官仕事は年々少なくなっている。効率と経済性を優先する今の家づくりでは、左官の技を生かす場がないともいえるが、住まいの健康がいわれ、自然素材に関心が高まる中で、今後は左官の需要も一部では高くなり、重要になっていくはずだ。 建築家はその作品を通して、世の中に職人技を知らしめることも、その役割のひとつだと思う。社会がその価値を認め、技能に相応の評価をしてこそ、その職業に誇りが生まれ、人材が育っていく。ある時期、経済的にヨーロッパのお荷物とまでいわれたイタリアの職人技が、世界のファッションシーンで脚光を浴びているのは、それを誇りにして、代々守ってきた社会的価値観のおかげだろう。それを思うと日本の建築は果たしてこのままで大丈夫だろうか。 そんな不安を持つ中、稲葉さんのような若い職人集団が夢を持ち、前向きに仕事に取り組んでおられる姿は頼もしい限りだ。その心意気に対して、われわれも大いに協力していきたいと思った。 (湯谷実/エム・アール設計) |
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