保存情報 第176回
登録有形文化財 長良川鉄道美濃市駅    澤村喜久夫|
伊藤建築設計事務所
本屋正面の車寄せ プラットホーム 延長98m 側面玉石積み 待合所とホーム上屋 停車中の観光列車「ながら」
■紹介者コメント
 市街地の南東部に位置する美濃市駅は、大正12(1923)年、国鉄越美南線の美濃太田駅と当駅間の開通と同時に美濃町駅として開業した。昭和29(1954)年、美濃町の市制に伴い美濃市駅に改称、昭和61(1986)年に第三セクター長良川鉄道株式会社に引継がれた。
 駅舎(本屋)は木造平屋建て、切妻平入り鋼板葺き、外壁は下見板張りである。正面に妻入り桟瓦葺きの車寄せ、背面に上屋付き連絡通路が続く。西寄りに待合室と改札口、東側に駅長事務室や休憩室などが配置されている。駅開設時に建てられた駅舎はその後改修を受けているが、基本的な構造はそのまま残り、大正期の官鉄駅舎の姿を伝えている。
 プラットホームは駅舎の南側に位置し、駅舎より高い位置にある。島式ホーム一面二線の地上駅は、連絡通路から先の地下道、階段で結ばれている。ホームには木造平屋建て、外壁下見板張りの待合所と、古いレールを柱に転用してつくられた上屋二棟がある。古いレールには1887年キャメロン社(イギリス)など製造年や製造元を示す刻印が5カ所に確認され、歴史を物語っている。
 長良川鉄道越美南線は北濃駅まで総延長72.1キロメートル。沿線には旧中山道太田宿の「美濃加茂市」、刃物と鵜飼の町「関市」、美濃和紙とうだつの上がるまち並みの「美濃市」、城下町郡上八幡の「郡上市」など自然と歴史に特色のある観光地が点在している。
 また、今春運行が開始された観光列車「ながら」は、水戸岡鋭治氏のデザインによる内装で、岐阜県産の木がふんだんに用いられている。美濃市駅を出ると列車は清流長良川に寄り添うように走り、車窓からは美しい自然を眺めることができる。

所 在 地:岐阜県美濃市字沓掛2946-6
登録番号:21-0216(本屋)
      21-0217(プラットホーム及び待合所)
登録年月日:2013年12月24日
参考資料:美濃市ホームページ
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) オリナス一宮 旧名古屋銀行一宮支店    谷 進|タクト建築工房
 
正面外観 1階吹抜け 金庫室扉
■発掘者コメント
 東海銀行(現三菱東京UFJ銀行)の前身の一つであった旧名古屋銀行は1882(明治15)年に開業し、1905(明治38)年以降に愛知県内及び岐阜・静岡各地の私立銀行の営業譲渡を受け支店を開設、拡大していった。一宮支店は1893(明治26)年設立の豊島銀行の営業譲渡を受け、1907(明治40)年に開設された。今回紹介する旧名古屋銀行一宮支店は、真清田神社の門前街として発展した商店街の中心に位置し、鈴木禎次の設計により1924(大正13)年に建設された。時を経た1941(昭和16)年、旧名古屋銀行、旧愛知銀行、伊藤銀行は合併して東海銀行となり、引き続き東海銀行一宮支店として使われた。1980(昭和55)年、東海銀行一宮支店が移転すると一宮市はこの建物を購入し、西分庁舎として利用した。2014(平成26)年5月、一宮市役所新庁舎の完成移転後は市民活動施設へ転用するために保存再生を考慮した減築改修が行われ、2016(平成28)年4月、市民ホール「オリナス一宮」としてオープンした。
 名古屋を創った建築家と称される鈴木禎次は、鶴舞公園噴水塔・奏楽堂・旧中埜家住宅など名古屋市内及び周辺市町にて多くの建物を設計している。夏目漱石の妻鏡子の妹を妻とする鈴木禎次は、名古屋で数少ない帝国大学出身の建築家であり、1906 ~ 22年まで名古屋高等工業学校建築科(現:名古屋工業大学工学部社会工学科 建築・デザイン分野)の教授をつとめ、退官後は名古屋で鈴木建築事務所を開設している。
 さて、4本のジャイアントオーダーの柱を有する外観は、上方部分が商店街のアーケードで隠れているがかつては石貼であった。過去のアーケード改修時に白く塗装され今回の改修で石目調の塗装が施された。風除室や1階腰壁は原設計を元に復原されたという。開口部の防火防犯用シャッター、矩形の営業室・客溜まり上方の吹抜け、張り出した金庫室など、当時の銀行建築の典型を見ることができる。金庫の扉や階段の手すりそして吹抜の天井や梁や中2階の開口部(中2階側は封鎖されている)などに建設当時の面影を残している。中心市街地に歴史建築が蘇り、まちに奥行きを感ずるような想いがする。

所 在 地:一宮市本町2丁目4-34
建設年代:1924(大正13)年
構造・規模:鉄筋コンクリ―ト造 3階建
設 計 者:鈴木禎次