保存情報 第170回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 旧山下郵便局   塚本隆典|塚本建築設計事務所
 
ファサード(現在の姿・筆者撮影)  竣工間もないころの正面写真
(下山郵便局より提供・昭和9年ころの撮影。以下同じ)
同・内部写真 同・裏側の写真
■発掘者のコメント
 三河路を旧下山村に車を走らせると、三河湖方面と足助方面の三叉路の交差点右手に旧下山郵便局が突如現れます。郵便局長にお話を伺うために訪れたのは、山裾が紅葉で色づき始めたころでした。近年雨漏りがするようになり修理のことも考えなければならない時期に来たのかも知れなとのことでした。また、「当時から正面入り口の扉がアルミに変わり、向かって左側の局長室であったところの窓がアルミのドアに変更され、その他一部サッシに変わっておりますが、ほとんど当時の写真と比較しても変更されておりません」とのことです。
 愛知県の近代化遺産によりますと「この建物は昭和6(1931)年12月11日に竣工している。建築面積124㎡、延面積147㎡、木造平屋建てだが、道路面(開口4.5間、奥行1.5間)を洋風2階建てとしている。モルタル塗りだが、石造風に横目地を入れ、正面に等間隔に配列した4本の柱は訪れる人に安心感を与えている。1階を客溜りと隣接した局長室、2階には和室6畳を2間付けていて、局員の休憩室としていた。局長室は上質な仕様で、竣工当時は、電話加入者は3件だが貯金預入高は12万円で、接待のための応接室として、白漆喰塗りで天井中心飾りにシャンデリアを付けていた。1階の執務部分は平屋建て寄棟造り、桟瓦葺きの局員事務室・作業室があり、電話交換室(12㎡)を付けている。昭和47(1972)年、隣地に新局舎が完成し、閉鎖された。以後、貸事務所として使用されたが、現在は郵便局の物品保管所となっている」とのことです。

所在地:豊田市大沼町八沢47-2
アクセス:名鉄バス・下山バス「大沼」下車、徒歩1分
参考文献:『愛知県の近代化遺産』
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 伊豆長岡の一日   山田正博|建築計画工房
 
韮山反射炉 三養荘別館「宿木」 三養荘新館玄関
■発掘者コメント
 三島駅から伊豆箱根鉄道で伊豆長岡駅に下車し、一日の行程を想定して、駅前からレンタサイクルにて、まず韮山反射炉をめざす。「明治日本の産業革命遺産」として世界遺産に登録された今は、多くの見学者にあふれていた。そこから北へ、反射炉をつくり上げた江川太郎左衛門の住まいである江川邸へ向かう。重要文化財の代官屋敷は重厚な構えで存在していた。主屋土間から見上げる小屋裏は、たくさんの桁・貫が組み込まれ圧巻である。
 ペダルをこぎ西へ向かい北条政子の産湯に使われたという井戸を覗きこみ、狭い道をたどり願成就院へと着く。仏師運慶が若き日、東国へ下向していた折に作製したお像を拝見できる。最近重文から国宝になった阿弥陀如来座像・毘沙門天立象と、二童子を従えた不動明王である。躍動感あふれかつ精緻な造形で見る者を圧倒する。何度訪れても感嘆させられる見事な仏様である。
 温泉街の北端に三養荘がある。岩崎弥太郎の孫の別邸としてつくられ、のちに村野藤吾の設計によりととのえられた。本館と別館の前に広がるお庭に入ると、現代の数寄屋である「宿木」が、梅を配した芝庭に優美な姿でたたずんでいる。そのほか一連の「桐壺」・「藤裏葉」を外からだけではあるが見ることができる。新館に戻り、広々とした玄関から離れ形式の中、長い廊下を経て、一番奥にある露天風呂を持つ浴場で汗を流す。本館の屋根が重なりその先に伊豆の山並みが望まれる。本来は宿泊の上、ゆったりとしたいところではあるが、諸般ままならず玄関を出る。入口脇にある、これも村野の設計による円形の「ラウンジ葵」で、珈琲をいただき今日一日に感謝する。
所在地・問合先:
韮山反射炉|伊豆の国市中字鳴滝入268
      TEL 055-949-3450
江川邸|伊豆の国市韮山韮山1番地
    TEL 055-940-2200
願成就院|伊豆の国市寺家83-1
     TEL 055-949-7676
三養荘|伊豆の国市ままの上270
    TEL 055-947-1111