保存情報 第169回
登録有形文化財 設楽町立田峯小学校普通教室棟   鈴木利明|一級建築士事務所
      デザイン スズキ
田峯小学校南面全景 田峯小学校玄関回り(脇に二宮金次郎像)
■紹介者コメント
 「田峯」は私には耳懐かしい奥三河の要衝で、旧・豊橋鉄道田口線から段戸山に登る拠点駅。今やバス便しかないが、車主導なら田峰観音・田峯城はじめ諸所の史跡や自然名勝巡りも楽しめる山間の由緒地である。
 設楽町立田峯小学校は、現地校舎新築時の昭和2(1927)年にアメリカから贈られた青い目の人形「グレース」の里帰りを契機に、学校と地区一体で活発な日米文化交流を20余年も持続・発展させていることでも名高い。また近年、桁行65mに及ぶ平屋建て・片廊下式の現役使用の木造校舎の原形を大切に一大改修がなされ、改修後の姿で国の登録有形文化財に登録された。
 昭和2年の竣工以来、地域に根差し多くの卒業生を輩出してきたが、山裾の緑に佇む伸びやかな赤い屋根と黒い壁の平屋建て校舎は山村コミュニティーの原風景ともなっている。近年の一大改修でもその原風景の末永い継承に意が尽くされ、新たに耐震・耐久化を施すさまざまな保存改修が実践された。「変わらぬ姿」で残すための耐震補強要素の内在化、一見判らない屋根構法の軽量耐久化(既設塩焼瓦→日本瓦形状で同色系の塗装鋼板葺き)や基礎の強化、既設資材の再利用や思い出空間の再編など、更新された姿での登録は意義深い。
 今年度児童数10名・複式3学級の小さな地域活動拠点はこうして新たな活力を重ねて、今後ますます地域共有の歴史の舞台を提供し続ける。古い現役木造校舎の玄関前での卒業写真は年々脈々と廊下に掲げられるという。
所在地:愛知県北設楽郡設楽町田峯字下畑9番地
所有者:設楽町
建設年:昭和2(1927)年、平成23(2011)年改修
構造・規模:木造平屋建て、鋼板葺き(改修後)
建築面積:689㎡( 他棟含み合計延べ1,084㎡)
設計者(改修):㈱黒川建築事務所
施工者(改修):㈱太平建設
問合先:田峯小学校 0536-64-5004
アクセス:豊橋鉄道バス・田口新城線「田峯」バス停
     (より徒歩約30分)
文化財指定等:登録有形文化財
23-0401
登録年 平成26(2014)年
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 石垣に惹かれて   尾関利勝|
地域計画建築研究所
 
名古屋城 白壁か茂免 四間道 荒子(旧集落)
■発掘者コメント
 9月、JIA大会で金沢へ。郭街、武家町、寺町のまち並みが魅力だが、その情景をつくる「石垣」が好きで、金沢を訪れる楽しみにしている。石垣は傾斜地のあるまち、城下町など日本のどこにもあり、よく見ると、それぞれの地域の特徴を持っていることが分かる。
 名古屋で筆頭に挙がるのは名古屋城。徳川家康の命で、尾張出身の外様大名を中心に築かれたことはよく知られている通り。傾斜地の少ない名古屋でも、あちこちに石垣を見ることができる。市内西部沖積平野の宅地地盤かさ上げ、丘陵地の地盤調整、塀垣の基礎部分の石積みなどである。尾張の特徴の一つは、大きめの玉石を亀の甲状に隙無く積み上げる亀甲積み。木曽三川沿いに多く、名古屋市内にも見ることができる。
 旧武家屋敷町の白壁界隈はほとんど平坦な地形だが、わずかに東下がりの傾斜がある。そのためか微地形の調整や塀垣の基礎に低い玉石積みの石垣が各所で使われている。ここに亀甲積みがある。和洋折衷の代表例、旧中井紙店(現・料亭か茂免)玄関右手の塀の腰を注目されたい。城下町西橋、堀川沿いの四間道付近は最近、町家を活用した店舗が増え、人気スポットになっている。四間道東の白漆喰の蔵は尾張名所図会に見る幕末の風景をよく留めている。ここの石積みは見るからに地盤差調整が目的と分かるが、それぞれのお店ごとに積み方が異なり、遊び心がうかがえて楽しい。時代的には城下町築造期とは思えないが、少なくとも幕末には形成されていたと見なされる。
 かつての農村集落にあたる城下町外縁部にも古い石垣を見ることができる。御器所、呼続、鳴海、星崎、高針、守山など丘陵傾斜地の旧集落を歩くと、そこかしこに石垣がある。市内北西部には地盤かさ上げの石積みがよく見られる。典型は蔵を石積みでかさ上げした水屋。緑と一体の集落景観が好きで荒子をよく歩くが、ここにも微地形調整の石積みが多い。時間があれば素材や積み方など地区ごとの特徴を掘り下げてみたいと思う。


築年:不明、江戸期から続くと推定