保存情報 第167回
登録有形文化財 名古屋大学医学部付属病院 門及び外塀   野口和樹|野口良一設計事務所
旧愛知県立医学専門学校正門及び外塀 旧愛知県立愛知病院正門及び外塀 外塀:支柱と格子手摺 外塀:支柱と格子手摺
■紹介者コメント
 名古屋大学医学部付属病院は、明治10(1877)年~大正2(1913)年に中区旧天王崎町(現・栄一丁目)にあった「旧愛知県立医学専門学校」と「旧愛知県立愛知病院」が、大学設置と施設設備の老朽化を理由に大正3(1914)年に鶴舞に移転され現在に至る。移転当初は西側約1/3を医学専門学校、東側2/3を病院とし、敷地南の道路に面してそれぞれ「正門」が配置され、木造ながら洋風・シンメトリーの威風堂々とした学校校舎と病院であった。しかし、そのほとんどが戦災で焼失し、唯一当時の面影を残しているのが、登録有形文化財になった「正門」2つと「通用門」1つ、およびそれぞれに接続する「外塀」である。
 「正門」は高さ約3.5mの4本の御影石門柱中央部に間口巾3.0mの両開き門扉を設け、その上部はスチールのパイプと球を用い、曲線をモチーフにデザインしたアーチ形や円盤形のオブジェで飾られている。「外塀」は門の両袖に2スパン程度ずつ残るのみ。支柱と壁面は、建築当初は煉瓦積だったが、昭和の改修でその表面にスクラッチタイルと出隅に嘴(くちばし)形のようなテラコッタで飾り、当時流行した表現主義的なデザインスタイルが偲ばれる。このタイルは櫛目を横長方向に6本引いて、削りかすをそのまま残して焼き上げてあり、「蕨(わらび)」といわれる焼き方のものと思われる。
 「通用門」は「正門」と比べ巾広で間口巾約7.4mのステンレス製片引き門扉に改修されているが、その両脇には高さ約3. 0mの門柱がスクラッチタイルとテラコッタで装飾されている。またそれに接続する前出のものと同じ「外塀」は昭和初期の様子をそのままに残している。この通用門より東に向かい名古屋工業大学前の交差点角までは、道路の緩やかな傾斜に従って「外塀」を勾配にあわせて階段状に配置している。東端の交差点から西側に向かって病院方向を眺めると、階段状にリズミカルに並ぶ延長約55mの「外塀」は壮観に感じられる。
所在地:名古屋市昭和区鶴舞町65 

建設年:大正3(1914)年 および大正10(1921)年以降 改修年:昭和5(1930)年頃改修、平成11(1999)年一部分保存修復 

構造:煉瓦造、塀支柱・同腰壁・通用門柱|施釉スクラッチタイル・同テラコッタ貼り、門柱・塀基礎・同笠木|御影石切石積、一部石垣|玉石積、門飾り・塀格子|スチール製加工品 

登録番号:旧愛知県立医学専門学校正門及び外塀 23-0246
旧愛知県立愛知病院正門及び外塀 23-0247
旧愛知県立愛知病院通用門及び外塀 23-0248 
登録有形文化財 旧中山道太田宿と吉田家住宅主屋(旧小松屋)   澤村喜久夫|
伊藤建築設計事務所
   
吉田家住宅正面 吉田家住宅内部 旧太田宿のまちなみ
■紹介者コメント
 中山道太田宿は江戸日本橋から数えて51番目の宿場で、開幕当時は大久保長安が奉行として治め、長安没後は尾張藩が支配した。同宿は宿駅機能だけでなく、尾張藩の太田代官所が設置されるなど木曽川筋の軍事、政治、経済の重要な拠点として位置づけられていた。
 宿内のまちなみは東から上町、中町、下町に分かれ、その長さは六町十四間(約680メートル)。天保14(1843)年「中山道宿村大概帳」によれば、戸数118軒、問屋場3カ所、本陣、脇本陣各1軒、旅籠20軒であった。
 吉田家は旧街道沿い、上町東端の桝形の南側に位置し、江戸時代には旅籠、大正時代から戦前にかけては煙草の元売りを営み、屋号を「小松屋」という。主屋は江戸末期の建築とされ、木造2階建て、切妻造り平入り、間口六間、奥行き七間半、正面2階は白漆喰による塗屋造りで両妻に袖壁(袖うだつ)を設けている。妻壁は土蔵造りでけらばも塗籠(鉢巻)としている。正面1階には下屋庇を設け、1、2階とも出格子を付けた典型的な町屋建築の姿を残している。
 内部は中央に通りニワ、その奥に帳場、西側に居室、東側は作業場となっている。2階は6つの部屋が通りニワ上部の吹抜け周りに配置されている。明治中期以降、再三改修され、商家建築の趣が強くなっているが、かつて宿場町だった名残を示す旅籠の遺構として重要な存在である。現在は無料休憩所として開放されている。
 平成17年度より旧太田宿沿道の家屋や店舗などの修景整備が行われ、まちなみ景観が向上した。現在も旧太田脇本陣林家住宅(国指定重要文化財)など地区に残る歴史的資産の保全と活用を推進し、地域住民の交流と観光及び商店街の活性化を目指したまちづくりが進められている。
所在地:岐阜県美濃加茂市太田本町2丁目字上町3799
登録番号:21-0237(2014.12.19登録)
参考資料:中山道太田宿散策案内(美濃加茂市・美濃加茂市観光協会)