保存情報 第155回
登録有形文化財   木綿蔵ちた(旧竹内虎王商店木綿蔵)  森口雅文|
伊藤建築設計事務所
 
木綿蔵ちたの北  窓と鬼瓦 当時の機織り機
■紹介者コメント
 愛知県知多市岡田地区は江戸時代から知多木綿の集積販売拠点として栄えた。
 「木綿蔵ちた」は岡田の街並みの主要な施設の一つで、昨年(2013年3月29日)登録有形文化財の認定を受けた「知多岡田簡易郵便局」(本誌2012年12月号に掲載)の東に隣接しており、今年(2014年4月25日)岡田地区では2件目の登録有形文化財に登録された。建設時期は大正の前期とされ、建築主の竹内虎王(たけうちとらおう)(1855(安政2)年~ 1931(昭和6)年)は、豊田佐吉に3年遅れて竹内式木製動力織機を発明し、1898(明治31)年に特許を取得、1901(明治34)年に竹内木綿工場を創業した。
 木綿蔵ちたは竹内虎王商店の木綿蔵として建設されたもので、土蔵造2階建、建築面積84㎡、切妻造桟瓦葺で、基礎は石積とし、湿気を避けるために床は高く張られている。外壁は漆喰塗で、正面の腰はモルタル洗い出しとなっている。北面には間口一杯に下屋を設け雨天時の反物の出し入れに配慮している。内部には荷の積み下ろし用の滑車も設備され、当時の木綿業の様子がうかがえる。2階の窓周りの重厚さや鬼瓦が地場産業の往事を伝える。
 現在は、「手織の里木綿蔵ちた」により当時の機織り機を展示、活用し、木綿手織工房として利用されている。
所在地: 愛知県知多市岡田字中谷9
問合せ先: 木綿蔵ちた TEL・FAX 0562-56-4722
交通機関: 名古屋鉄道常滑線朝倉駅より知多バス東岡
田行にて「岡田」下車
開  所: 10:00〜16:00
定休日: 毎週水・木 
     毎月最終月曜日と年末年始
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査)   旧伊藤耳鼻咽喉科医院  野口和樹|野口良一設計事務所
 
 外観:西側正面(空港線東向き)   正面ぺディメント、棟飾り、院名銘板 外壁:スクラッチタイル(施釉で荒削りな櫛目が特徴)
■発掘者のコメント
 昭和恐慌からの立ち直りの兆しが見えはじめていた頃、名古屋市は人口100万人を突破し、多くの公共施設やインフラが整備され、街全体に活気があふれはじめていました。昭和7(1932)年7月、地域医療に熱い情熱を抱いた地元出身の医師伊藤源一(もとかず)氏により、この診療所は名古屋市内における耳鼻咽喉科医院の第1号として建てられたそうです。
 建物は西側正面と平行に走る市道堀田高岳線(空港線)に接道し、路面よりも1m以上高い位置にあります。正面ほぼ中央部に銅板葺きのペディメントが付いた玄関ポーチがあり、現在はその右脇を建物と平行に幅の狭いスロープにて上がりますが、新築当初は前面道路も拡幅前で、スロープは建物に対して直角に幅が広くゆったりとし、道路側には立派な門柱が立っていました。
 新築当初は住宅(客間など)が付属していました。玄関ホールの奥に受付、右に待合、診察室、手術室、トイレ、左に内玄関、応接間、座敷があり、2階は入院患者の病室と看護婦などの控室、水廻りなどがありました。閉院後も住居の一部として使われ、現在も間取りは大きく変えられずに、内装や造作なども一部当時のままの状態で残っています。
 木造ながら正面の外壁には、当時としては大変高価で公共施設や邸宅ぐらいしか使われなかった希少なスクラッチタイルを貼り、診療所としての品性と風格を表現しています。開設当初の医師の情熱が感じ取れます。外壁はクラックや剥離がほとんどなく、当時の施工技術の高さが偲ばれます。
 正面中央部屋根には、玄関ポーチと同様に銅板葺きの洋風ペディメントと花瓶形の棟飾りがあり、その直下に半円形アーチが付き、上部に医院名称の銘板が右書き旧書体で書かれているところはクラシカルな雰囲気を醸し出しています。
 所有者の方に、戦時中、空襲にて焼夷弾を数発被弾したものの不発弾で屋根と床を突き破り内部は燃えずに残ったこと、外部は近隣住民の懸命な消火活動により軽微な損傷にとどまったことを伺い、残るべくして残った建物という運命を感じました。
 私が「なごや歴まちびと」養成講座での課題研究発表で取り上げた御縁が契機となり、現在、名古屋市登録地域建造物資産に。今後所有者が代わられてもこのまま残していただけるよう、微力ではありますが何らかの働きかけなどを続けていければと思っています。


所在地: 名古屋市昭和区御器所1-9-9
構 造: 木造2階建て、寄棟造り桟瓦葺き一部銅板葺き、外壁は正面施釉スクラッチタイル貼り、他面杉下見板張り一部塗装仕上げ