保存情報 第152回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査 神谷家住宅・アイチ味噌溜店舗  原眞佐実|原建築設計事務所
 事務所正面 左が住宅棟、右が事務所棟 事務所棟の抜け路 大豆貯蔵蔵
     
事務所棟裏面  会議室  事務所
■発掘者のコメント
 岡崎市から国道1号線を東へ行くと、旧東海道の集落であった「本宿」に出る。そこにこの建物はある。神谷合名会社、アイチ味噌溜店の事務所棟である。
 神谷家が「神谷商店」を創業したのが明治37(1904)年。初代は神谷坂吉、味噌溜(神谷合名会社、アイチみそ株式会社)のほか、材木、製材(神谷産業瀬戸木工工場)も商っていた模様である。
 「愛知県の近代和風建築」によれば、二代目菅治(スゲジ)が事務所棟の東隣の住宅棟も建て、未見の棟札に“転宅昭和5(1930)年7月7日神谷菅治”と墨書きが残されているとの記述があるが、神谷家の現当主四代目直久氏によれば、隣は神谷家の持ち家ではなく、平成24(2012)年まで別人(親戚)が住んでいたとのこと。現在はその方が亡くなられ、住人のいない廃屋となっている。ただ、住宅棟も神谷合名会社の事務所棟と合わせて岡崎市景観環境賞を受賞しているので、両棟そろった状態での維持管理を切望したい。
 事務所棟は平成24(2012)年の夏に改修されたということで、総2階建ての平入り造り、街道より向って右側(西側)にあった事務所を改装し、踏込み程度の畳一枚の土間スペースを6畳程の客待ちスペースに広げ、事務室が南北に建物を貫いた形になった模様。奥の社長室にあった2階への階段は取り払われ、天井板が張られているが、昔は手伝いの職人さんたちの寝泊りする座敷があったらしい。
 事務所棟も和風の雰囲気を壊さないように配慮され、外部の硝子窓は昔のままの建具が再利用されている。すきま風が入り冬は寒いらしいが、古いものを大切に使おうとする現当主の気持ちが伝わってくる。
 なお、今回の訪問でわかったこととして、この建物の奥には土蔵造りの大豆貯蔵庫や同じく土蔵造りの室蔵があること、さらには事務所棟の西側の細い赤道を隔てた住宅(実はこれが神谷家の住宅であった)の奥に、古い仏間造りの住宅棟が残っているということがある。
 大豆貯蔵庫は通り抜け通路を入った敷地の西側に東西向きの棟で建てられている。屋根は桟瓦葺きで壁は土壁の上に漆喰塗り、ただし、南面の外壁のみタール焼付風トタンの化粧張りという珍しい仕上げになっている。
 岡崎市は、歴史的建造物の修復とあわせて本宿周辺の整備事業を行おうとしているが、神谷家の当主も本宿の歴史を少しでも残すにはどうすればよいか思案中で、東隣の廃屋になっている住宅棟の入手も考慮中とのこと。
名  称:神谷家住宅・アイチ味噌溜店舗
     (所有者:神谷合名会社、神谷家)
所在地:愛知県岡崎市本宿町南中町45番地
建築年代:昭和5(1930)年建築、平成24(2012)年改修
構造及び形式等:木造2階建て切妻造桟瓦葺き
     外壁竪羽目板張り、下見板張り竪桟押え
延床面積:311.69㎡
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 名古屋センタービル本館  谷口 元|名古屋大学
 
竣工当時の外観 エントランスホール オフィスゾーン
■発掘者のコメント
 約400年前の竹中工務店創業の地に、50年余前建設したビルがリーニューアルされ、グループ企業を集約して新たな門出を果たした。筆者は何年も前にBCS賞受賞建物の現在を執筆する機会に取材訪問しており、クオリティの高さに感心した覚えがあるが、このたびの改修もより良い建築空間に仕上がっていた。木と漆喰と和を思わせるレースで構成されたエントランス、洗練度の高い応接ゾーン、各階エレベーターホール部の耐候性鋼板や集成材の壁面など、素材を生かしたインテリアに、改修の模範を示そうという意気込みが見て取れる。
 会議ゾーンは全面ガラス張りで、オフィス全体の見える化に努めており、オフィスの中央部分はオープンな打ち合わせスペースである。既存の天井懐を見直して、執務部分の天井高をできるだけ上げ、設計部門などは天井仕上げを取り払ってスラブ下をインテリア化している。古い味わいの設備配管を露出させているのが、かえっておもし
ろい。竹中工務店名古屋支店が他の入居者を挟んでテナントとして入居しているため、地階の食堂も含めて無線LANとIP電話を敷設し、どこでで
も情報交流しながら仕事ができる環境を整えている。建設当時から定評のあった既存ビルを再生し、これからも都市の中の良質なオフィスビルの一
つとして位置付けられる、新たな価値を付加したという点で高く評価される事例である。

※竣工時の写真は「第5回建築業協会賞作品集」(1964, 建築業協会発行)より転載、それ以外はSS 名古屋
所 在 地:名古屋市中区錦2-2-13
建 設 年:昭和41(1962)年7月
敷地面積: 3,106.82㎡
建築面積: 2,720.53 ㎡
延床面積:36,539.51㎡
構   造:SRC 造
階   数:地下4階 地上10階 塔屋4階
最高高さ:38.10m
◉耐震機能及びテナント部分改修
建 設 年:平成24(2012)年2月
設 計 者:竹中工務店
施 工 者:竹中工務店