必ず起きる地震と災害に備えよう

忘れられた昔の地名、震源地

 川窪 巧
一級建築士事務所 川窪設計工房
   かわくぼ・たくみ| JIA 愛知会員。
1947年生まれ。
名城大学卒業後、設計事務所勤務を経て、
1983年、愛知県岡崎市で川窪設計工房設立。
県立半田工業高校非常勤講師
伊勢湾内で地震と津波があった 
 伊勢湾内で地震が起きるなんて誰も言わないのに本当でしょうか。
 県内全域の活断層の分布図「愛知県活断層アトラス」(作成:平成9年9月、監修:愛知県防災会議地震部会)に直下型地震被害があったと掲載されています。1586年(天正13年)の天正地震(右表の①)の震央は、飛騨白川説、伊勢湾説、双子地震説などがありますが、その被害は木曽川河口の島が沈没、長島城など倒壊、死者6,000人、民家倒壊8,000棟、津波があり被害大、とされています。豊臣秀吉が関白になった年でもあります。被害の状況から、伊勢湾説(飯田説)が有力です(図1)。だから伊勢湾内で地震と津波が起きる可能性を否定できません。
「濃尾傾動地塊」を知っていますか
 濃尾平野は傾いている、ということです。東の猿投山から地層は西に向かい、傾いている地層の塊で成り立っています。大昔、木曽川は大曽根のあたりを流れており、古木曽川といわれていました。その根拠もあるといいます。だんだん西に傾き、川も一宮の東側を流れ、なおも傾き、木曽川が二股に流れたところ、一宮あたりが中島のようになりました。中島郡といわれたのはそのためです。猿投神社に伝わる古地図には、中島郡一宮とあり、島になっています。合併により平和町、祖父江町から中島郡が消えたことが残念です。さらに平野が傾いて、木曽川は今の三重県との境まで移動しました。これが木曽川の歴史なのだそうです。
 養老山脈の東側はスパッと切ったようになっています。山の裾がないのですが、断層により山裾は2,000m地下にあります(図2)。
 地層が滑り、何度も地震を繰り返した結果、木曽川が三重県側に移動していきました。地層が傾く過程で割れてくる断層、そのひとつが名古屋市の堀川であり、その東側に堀田から鶴舞(つるま)を通る線です。そこは、水流間(つるま)と呼ばれていたところです。水が流れ、湿地だった場所を埋め立てて公園に整備し、縁起の良い名前をつけました。「鶴が舞う」と書いて鶴舞(つるま)公園とし、明治45年開園しました。今は鶴舞公園、鶴舞図書館、鶴舞小学校の3カ所だけしか「つるま」と言わず、住所や駅などが「つるまい」というのは時代の流れのようです。
 図2 濃尾傾動地塊 
建築基準法制定のきっかけとなった
福井地震
  
 中部地方に次々と起きた地震、中でも戦後起きた地震で大和百貨店が崩壊して多くの人命が失われた福井地震(右表の②)を機に、建物の強度の規定、建築基準法、施工令に構造規定が定められました(水平震度0.2)。直下型の地震の恐ろしさを知らしめた地震でもあります。
 日本唯一の笏谷石の石瓦で有名であり、最も古い天主を持つ福井丸岡城から少し車で走ったところに、震源地の石柱(写真1)がひっそりと水路脇にありました。何の看板もなく、当日咲き誇っていたあじさいの花に隠れて道からは見えず、震源地なのに忘れ去られていく様を目の当たりにしました。高速を使うようになり、交通量も減り、人々が忘れた頃にまた襲ってくるであろう地震災害。こうして忘れ去られていくのかな、との思いがしました。
 
写真1
 
地震被害と地震対策の変遷
年月日 地震名 規模 被害の概要等 地震対策の変遷その他
1 1498.09.20 明応地震 (明応7年) M8.2 記録が残る最古の東海(東南海)地震、津波による溺死者が志摩で1万人、       伊勢国の安濃津を壊滅させた
1586.01.18 天正地震 (天正13年) M7.8 木曽川河口の島が沈没、長島城倒壊、死者6,000人、倒壊8,000棟、          津波があり被害大 豊臣秀吉が関白となった年である
1596.09.05 慶長伏見桃山地震 M7.5 伏見城天守閣が大破し、城内で573人が圧死 (震度7)
2 1605.02.03 慶長地震 M7.9 東海・東南海・東南海地震が同時に発生したとみられる                   太平洋岸で津波発生、死者1~2万人
3 1707.10.28 宝永地震 (宝永4年) M8.4 (宝永4年10月4日) 中部、近畿、四国、九州の広い地域にまたがり、東海、東南海、南海の巨大地震が同時発生   死者5,038人 ?(宝永4年11月23日)         1707年12月16日富士山の宝永噴火(49日後)                  
1847.05.08 善光寺地震 M7.4 死者8,600人、全壊21,000棟、焼失3,400棟
1854.07.09 伊賀上野地震 ?M7.2 死者625人、負傷者994人、全壊2,270棟、焼失3,400棟
4 1854.12.23 安政東海地震     (安政元年) M8.4 死者2,658人、流失家屋8,300余棟
安政南海地震 M8.4 32時間後に連動して起きたといわれている    津波が紀伊半島や四国を襲った。串本(和歌山)で15m。死者3,000人、倒壊・流失4万棟
1880.02.22 横浜地震 M5.6 煙突の被害、家屋の屋根が落ちる 1880年 「日本地震学会」設立―地震研究、地震計の開発
1886年 「造家学会」設立(のちの日本建築学会)
1891.10.28 濃尾地震 M8.0 愛知、岐阜に大被害、死者7,273人、全壊142,177棟 1892年 「震災予防調査会」設立―木造建築物の耐震化など、耐震研究始まる
1900年頃 鉄骨造、鉄筋コンクリート造の導入
1906.04.18 アメリカ       サンフランシスコ地震 ?M8.2 サンフランシスコ市に地震とその後の火災による大被害、死者約800人 米国の耐震研究のきっかけとなる
RC造の耐震、耐火性を評価する
1916年 「家屋耐震構造論」発表―震度法の提案など
1919年 「市街地建築物法」公布―1920年施行(施行令に100尺の高さ制限)
日本で最初の建築法規
1923.09.01 関東大震災 ?M7.9 東京中心に大被害、死者142,000人、全半壊25万棟、焼失45万棟 1924年 物法施行規則大改正、地震力規定導入(水平震度0.1)、耐震規定強化
地震後に多数の火災発生。死者の大半は火災による 建築学会、耐震計算のための「構造強度計算基準」制定
石造、れんが造、木造に大被害、S造、RC造にも被害 ★耐震基準の目安の地震
(330ガル)
1934年 室戸台風・関西地方に木造建築物の大被害、構造計算方法の研究
1940.05.19 アメリカ        エルセントロ地震動 M7.1 カリフォルニア州に被害、死者8人 強震記録(341.7ガル)は応力解析に用いられる    〔エルセントロ波〕
             〔エルセントロ波〕 アメリカ イペリアル バレイ地震 M7.1
1941年 「建築物耐震構造要項」(日本学術振興会)
5 1944.12.07 東南海地震 M7.9 静岡、愛知、三重に被害、死者1223人、全壊17,599棟 1944年 「臨時日本基準規格」(戦時規格)(水平震度0.15)
半壊36,520棟、流失31,29棟
1945.01.13 三河地震 M7.1 愛知南部、死者2,306人、全壊16,408棟、半壊16,555棟 戦争中のため報道管制がしかれたため、まぼろしの地震といわれる
(M6.8) 1945年8月15日 終戦
6 1946.12.21 南海地震 M8.0 中部以西各地に被害、死者1,330人、全壊11,591棟、半壊23,487棟 終戦後に被害地震が頻発している
流失1,451棟、焼失2,598棟 1947年 「日本建築規格建築3001」(水平震度0.2)のちに建築基準法に採用される
1947年 カスリーン台風など終戦直後に風水害も相次ぐ
1948.06.28 福井地震 M7.1 死者3,769人、全壊36,184棟、半壊11,816棟、焼失3,851棟 1950年 建築基準法制定、施行令に構造規定が定められる(水平震度0.2)
大和百貨店が崩壊する
1952.07.21 アメリカ         タフト地震動 M7.7 アメリカ カーンカウンティー地震 強震記録(175.9ガル)は応力解析に用いられる   〔タフト波〕
               〔タフト波〕 カリフォルニア州ケーン郡に被害、死者12人 1950年代 高層建築技術の開発(強震記録とコンピューターの進歩)
1961年 基準法改正、容積地区制度により31mの高さ制限の緩和
1963年 基準法改正、容積地区制度により31mの高さ制限の適用除外
1964年 「高層建築技術指針」発表(日本建築学会)
1964.06.16 新潟地震 M7.5 新潟、秋田、山形に被害、死者26人、全壊1,960棟、半壊6,640棟 1965年 基準法改正、31mの高さ制限廃止(容積率制限にかわる)
砂質地盤の液状化現象、RC共同住宅が転倒
1968.05.16 十勝沖地震 M7.9 東北、北海道南部に被害、死者52人、全壊673棟、半壊3,004棟 1968年 日本初の本格的超高層ビルである霞が関ビル完成
RC短柱のせん断破壊
(235ガル)
1971.02.09 アメリカ       サンフェルナンド地震 M6.4 ロサンゼルス市に被害、道路橋の落下など、死者58人 1971年 建築基準法施行令改正、RC柱の帯筋間隔規定の強化改正
病院で多くの死者でる 鉄筋コンクリート構造計算基準大改正(せん断補強法の強化等)
★コンクリートの布基礎の導入
1978.01.14 伊豆大島近海地震 M7.0 伊豆半島で被害、死者25人、全壊96棟、半壊616棟 1978年 新耐震設計法にもとづいて基準法の耐震規定の改正がなされる
1978.06.12 宮城県沖地震 M7.4 宮城県中心に被害、死者28人、全壊1,183棟、半壊5,574棟 1981年 建築基準法施行令の耐震規定改正(通称:新耐震設計法)
(432ガル) 新耐震設計法の導入
1983.05.26 日本海中部地震 M7.7 秋田に津波で死者、死者104人、全壊934棟、半壊2,115棟、流失52棟
1985.09.19 メキシコ地震 M8.1 メキシコ市で大被害、中高層ビルの倒壊、死者・不明者1万人
1989.10.17 ロマプリエタ地震 M7.1 サンフランスコ市などに被害、死者63人
1993.01.15 釧路沖地震 M7.8 釧路等で建築物、道路に被害、死者2人
1993.07.12 北海道南西沖地震 M7.8 奥尻島で津波、火災による被害、死者202人、不明者28人
1994.01.17 アメリカ         ノースリッジ地震 M6.8 ロサンゼルス市等に高速道路落下などの被害、死者61人
1994.10.04 北海道東方沖地震 M8.1 釧路、根室で被害、北方四島で死者のでる大被害
1994.12.28 三陸はるか沖地震 M7.5 八戸中心に被害、死者2人
1995.01.17 M7.3 阪神、淡路に大被害、倒壊構造物多数 ★震度階の見直し
阪神淡路大震災 死者6,433人、全半壊177,000棟 建築基準法改正            ★コンクリート基礎や耐震金物の規定が厳格化
(兵庫県南部地震)   (818ガル) 耐震改修促進法制定   ??      ★1981年以前の建物への耐震診断が義務化
2000年 建築基準法改正                                                 ★地盤調査が事実上義務化     ★構造材と仕口の仕様を特定化
2001年 既存住宅の耐震等級評価    ★耐震等級が制度化
住宅品質確保の促進等に関する法律(品確法)   ★性能表示制度スタート
2004.10.23 新潟県中越地震 M6.8 2,515.4ガル 死者68人 国内で起きた地震は、建築基準法の想定以上の地震が相次いで発生している
2004.12.26 インドネシア      スマトラ沖地震 M9.0 インドネシアスマトラ沖インド洋、津波被害大
死者22万人、行方不明77,000人
2005.03.20 福岡西方沖地震 M7.0 489ガル
2005.08.16 宮城県南部地震 M7.1 564ガル
2007.03.25 能登半島地震 M6.9 945ガル
2007.07.16 新潟県中越沖地震 M6.8 約1,000ガル   原発で最大揺れ2058ガル(柏崎刈羽3号機)
使用済み燃料プールの水が溢れ放射能漏れをおこす。                             
電源が喪失し消火ポンプが使えず火災が消せなかった。
3000箇所の配管の支持補強工事を行う。
2008.05.12 中国・四川大地震 M8.0 死者7万人、負傷者37万人、倒壊21万棟、損壊415万棟
2008.06.14 岩手・宮城内陸地震 M7.2 4,022ガル 地表で観測された世界記録(ギネス認定)地震断層の真上の地震計が記録  ・ 死者・不明者22人  岩盤が崩れる(深層崩壊)
2010.09.04 ニュージーランド・(グリンテール断層)地震 M7.0 直下型地震                                                     
ニュージーランド南島 クライストチャーチの西45km、震源の深さ5km
午後4時35分
2011.02.22 ニュージーランド・クライストチャーチ地震 M6.3 直下型地震(認識されていない地下断層)                        ニュージーランド南島 クライストチャーチ郊外5Km、震源の深さ4km 
午後0時51分カンタベリーTVの建物は全壊、死者180人不明200人以上               日本人行方不明28人の死亡確認
2011.03.11 M.9.0 日本国内で観測された最大の地震
東日本大震災 死者行方不明者 18,618人
(東北地方太平洋沖地震) 2,933ガル(3成分合成値)、1,808ガル(仙台市内観測点)
※ガル(Gal)は地震動の加速度で、一秒間にどれだけ速度が変化したか表す単位。1ガル=1cm/s?
※太文字の地震は、東海・東南海・南海プレート上の地震を示します 製作  川窪設計工房+製作委員会
※数字は1月号表2の発生予測