保存情報 第148回
登録有形文化財 旧市川家住宅  林 廣伸|
林廣伸建築事務所


所在地:日進市野方町東島384
登録番号:23-0393
母屋全景 ザシキ 戸棚扉墨書
■紹介者のコメント
 旧市川家住宅は飯田街道の北側に位置し、屋敷南端に「長屋門」を構える。現状では「長屋門」の東側を切断し、大谷石塀と鉄パイプ扉の門構えとする。「長屋門」西側には「書院」を設ける。屋敷中央部に「母屋」を置き、背面側には「井戸屋形」と東西2棟の「土蔵」を配する。さらに最深部の北端には「隠居部屋」を建てる。屋敷周りをやや繁茂しすぎた屋敷林が囲む、典型的な農家の屋敷構えである。今回登録されたのは母屋だけであるが、一団の屋敷構えとして全棟の登録が期待される。
 母屋は享保年間の創建といわれる植田の庄屋宅を、明和年間に野方へ曳家されたと伝える。構造は三間×二間半のフレームを三連させる「四つ建」形式の大型な茅葺農家である。当初平面はこの三間×七間半のメインフレームの半間外側に側柱列を設け、船枻状に腕木を出して葺き下しの茅葺き屋根を支えていた。その後、さらに4面に半間(実長三尺三寸、東面は一間)桟瓦葺の下屋を増設する。この下屋庇の発生は明和年間か。さらにその後ニワや広間型のダイドコロの細分化、納戸周りの改修(戸棚扉に「天保八年」の墨書=写真)が見られ、明治期には東下屋部分
を改造し「マヤ」を設ける。 
 日進市は人口急増地である。名鉄豊田線の駅周辺はマンションが林立し、日々の変貌がはなはだしい。一方、旧市川家の在る「野方」、「赤池」、「折戸」などは古地図にもその地名が認められる。日進市にとっては「開発」と「保全」は二項対立的なテーマであろう。旧市川家住宅の屋敷構えを含む「農の景」は、できうれば今日的恣意性を排し「なにものも省かず」「なにものも加えず」原初の姿を伝えたい。
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 今池地下街  塚本隆典|
塚本建築設計事務所
   
シャッター街となった通り  地下鉄への連絡通路
■発掘者のコメント
 今池地下街は、昭和35(1960)年の地下鉄東山線の延伸に伴い、千種地下街とともに開設されました。規模は千種地下街よりも5割ほど大きくかなり広く感じます。千種地下街と同じ運命をたどり、平成25(2013)年3月末で閉鎖されました。
 日本には20の都市に地下街があり、地下街の総数は78になります。名古屋には20の地下街があり、東京の12に対し群を抜いて多いということになります。床面積を比較しても名古屋が約18.3万㎡で、東京の約22.6万㎡に対し引けをとらない規模です。
 閉鎖された地下街は7都市で名古屋の千種、今池を含め8カ所になります。
 日本最古の地下街は平成23(2011)年に廃止された、東京都千代田区の神田須田町地下鉄ストアで、昭和6年に開設されました。名駅地下街サンロードより26年も前のことになります。 日本初の地下鉄、浅草−上野間を含む銀座線全区間は、平成21(2009)年経済産業省から近代化産業遺産に認定されました。
 地下街もそれに匹敵する価値はあるのではないかと思いますが、シャッターの降ろされた商店街が連絡通路としてのみ利用されているのは、活用という観点からももったいないことだと思います。今後、この空間の活用に向けていろいろな提案がなされ、都市に住む人々、交通機関を利用する人々に有効に利用されるべきでしょう。地下に存在し、建築的な意味からは姿形の見えない空間ですが、50年以上たった建造物が、ともすれば我々の意識の外にありながらも生きられた都市の空間として再認識されることを望みます。
参考資料:市営地下鉄開業50周年記念 名古屋の地下鉄 メモリアル50(名古屋市交通局)、図解 地下鉄の科学(BLUE BACKS)
所在地:名古屋市千種区今池4-10-8
開業日:昭和35(1960)年6月
施設所有者:株式会社名古屋交通開発機構
施設管理者:株式会社名古屋交通開発機構
商業施設面積:606㎡
延床面積:1,194㎡
最寄駅:名古屋市営地下鉄今池駅