木とながくつきあう④ 木材を利用した納まり 石山央樹 (中部大学工学部建築学科 講師) |
いしやま・ひろき| 1975年静岡生まれ。 1998年東京大学工学部建築学科卒業、 2000年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程終了。 同年住友林業株式会社入社。 2009年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。 2010年より九州大学非常勤講師、 2012年より中部大学講師。 専門は木質構造、木質材料、耐久性、建築構法。 博士(工学)、技術士(建設部門)、一級建築士 |
||
前回、すでに生命活動を終えている木材をながく健全に保つためには、人間がそれに適した環境を提供してやらなければならない、と述べた。今回は、ではどのようにしてそのような環境を実現するのか、基本と応用を紹介したい。 | |||
二重の防水対策を | |||
前回、木造住宅における劣化軽減対策のうち、最もプリミティブな方法が「木質部材を水分のアタックから遠ざけること」である、と述べた。すなわち、人間が木材に提供してやるべき最も基本的な環境は、水分の作用しにくい環境である。水分の中で最も注意すべきなのは雨水であり、①直接降りかかる雨水、②跳ね返り雨水、③伝わり雨水のそれぞれに対して有効な対策をとる必要がある。まずは正しい構法によって水分を遠ざけ、その上で、フェールセーフ機構として材料の選定や薬剤の利用などをするのがよいだろう。一次バリアとしての水分対策、二次バリアとしての木材保存剤利用を適切に組み合わせて利用したい。 | |||
屋根 | |||
まず、屋根の勾配と流れ長さに適した屋根葺き材を選定することが重要である。その上で、直接降りかかる雨水が外壁に作用しにくいように、軒や庇の出を確保したい。近年、デザインを優先させた結果か、軒の出の小さい、あるいは軒のない住宅が見受けられるが、耐久性上はあまり好ましくない。屋根は特に雨がかりが多い場所として、防水材料や構法が成熟しているが、外壁は開口部周りの複雑な納まりなど、防水上欠点ができやすい。外壁に直接降りかかる雨水に対しては、軒の出を大きくすることが、単純でかつ効果が大きい。図1に壁面の雨がかり負荷の計算例を示す。軒の出を大きくすると劇的な効果が期待できることが分かる。軒の出はできれば60cm確保したい。 言うまでもなく、屋根による躯体の保護は最も簡易で確実であるので、特に伝統的な木造構法においては、外壁に突出した梁や母屋の鼻先の保護や、木橋の横架材の鼻先の保護などに多く利用されている(写真1)。木製看板の保護や、外構の杭頭の保護なども屋根の一種であろう(写真2)。いま一度基本に立ち返って、屋根の効果を見直すのもよいだろう。 |
|||
図1 雨がかり負荷の計算例*1 | |||
写真1 | 写真2 | ||
樋と外壁 | |||
雨水で意外と見落としがちなのが跳ね返り水である。軒先から落ちた跳ね返り水は最大110cmも飛散する。直接地面に降る雨水の飛散距離は35cm程度であることから、樋の重要性が分かる。デザイン上、あるいは積雪のために樋を設けない場合は、跳ね返り水の対策を十分に行う必要がある。例えば、軒先直下に砂利や植栽を設ける、外壁下部の防水対策を十分に行う、などである。伝統的な木造住宅では外壁を腰高まで張り上げているケースが多いが、これは直接降りかかる雨水と跳ね返り水への対策であろう。 | |||
写真3 | 写真4 | ||
霧除け庇と水切り | |||
伝わり雨水とは、読んで名のごとく、外壁に降りかかった雨水がそのまま外壁を伝って流下したものである。壁面に何もない場合に比べ、霧除け庇や中間水切りは、伝わり雨水に対して大きな効果がある(図2)。西洋の建築に見られる軒蛇腹、胴蛇腹や、高知県の伝統的な住宅に見られる水切り瓦は、中間水切りとして機能する。中間水切りは伝わり雨水を壁面から遠ざけて地面に落とすことによって雨水の累積を防ぐ機能を持つ。また、霧除け庇は、防水上弱点となり得る開口部に作用する、直接降りかかる雨水を軽減する効果がある。 | |||
図2 水切りの効果*1 | |||
水分を滞留させないディテール | |||
水分に対する一次バリアとして、雨水の作用を軽減する納まりを見直したが、水分が作用したときに、それを滞留させずに早く排出させることもまた重要である。第1回で紹介したような、斜めの木口カバーや平行四辺形断面の外壁材はその一つである。水分を滞留させない最も簡易な方法は、部材に傾斜をつけて水分を流下させることである。屋根や庇、水切りの設計においてはほとんど意識せずに傾斜が設けられるが、外構に用いられる木質部材の設計においては、軽視されているケースが散見される。少し気の利いたディテールでは、部材断面が山形になるようにカットしたり、部材そのものを傾斜させて取り付けるといった工夫が見られる(写真3)。 また、部材の組み合わせ方にも注意したい。出窓の下部(写真4)、窓台と方立の勝ち負けに注目したい。一般的には、窓台の上に方立を載せる組み合わせとなりそうであるが、方立勝ちとして窓台を方立の側面に取り付けてある。水分を滞留させない納まり上の工夫であろう。方立負けとすると、窓台の上部に水分が滞留し、方立の木口から腐朽しやすくなることが想像できる。方立勝ちにすることにより水分が滞留しにくくなり、それぞれの部材の木口からの腐朽リスクを低減できるということである。 さらに、単一部材の利用方法にも留意したい。木材の背割りは、真壁和室などで見えがかりの面の割裂を防ぐための技術であることに注目しがちであるが、屋外の手すりなど、雨がかりのある水平部材にも有効である。すなわち、あらかじめ背割りを入れて下向きにしておくことによって、上面に予期せぬ割裂が入り、水が滞留して腐朽しやすくなるリスクを減少させることができる。 最後に、必ずしも木造に限ったことではないが、部材下面の水切り形状と寸法については、有用な研究結果があるので、紹介しておきたい(図3)。 |
|||
図3 水切りの所要寸法*1 | |||
基本を知るということ | |||
技術は進歩し、防水材料の性能も格段に向上してきている。しかしながら、建築はアッセンブル技術である。建築の性能は単一の材料で決まるのではなく、組み合わせ方、すなわち構法によるところが大きい。そう考えれば、材料の性能のみに頼った設計でなく、構法的な解決方法を講じておくことの重要性が理解できるだろう。少なくとも、何も知らずに構法的な解決方法を講じないのと、基本を知った上で敢えて別の構法を採用するのとでは、例えば維持管理プログラムに大きな違いが生じるように、そこには大きな差があると言えよう。 |