保存情報 第144回
登録有形文化財 旧二俣町役場(現「本田宗一郎ものづくり伝承館」)  鈴木利明|日本設計
 
通りからの南東面全景 正面・玄関ポーチ見上げ 玄関内観(と魅惑の展示物)
■紹介者コメント
 昭和11(1936)年、浜松平野と北遠地域を結ぶ要衝に形成された二俣の町に、二俣町役場は建設され、昭和33(1958)年に市制施行により天竜市庁舎となり、昭和45(1970)年の別地移転までその任にあった。平成10(1998)年の文化庁登録有形文化財調査を経て、平成15(2003)年に登録された。
 木造2階建て、寄棟造り・桟瓦葺きのシンメトリー構成の庁舎建築で、外観は四隅コーナー部と1階壁面を格調高いスクラッチタイル張りとし、軽快な縦長の上下窓を端正に配した明快な表情となっている。また正面に、独立柱を建てた背の高いポーチ空間を付加して、モダンな洋式建築を形づくる。地元の大工・本島亥三郎の作品で、長く市民に親しまれてきた。
 平成22(2010)年には「本田宗一郎ものづくり伝承館」として改修オープンし、地元の偉人の実績と人間性を存分に発信している。内装的にはもともとのモダニズムが尊重維持される一方、氏の遺したクリエイティブな著名製品展示が際立ち、心躍る出会いが魅力である。
 隣接する、徳川家康の悲劇の嫡男・信康の菩提を祀る清瀧寺や諏訪神社の界隈ともども、歴史・旧跡散策コースとしても好適で、旧街道沿いまで足を伸ばせば、古い町並みや個別建物巡りも楽しめる。またさらに、近年建築界の話題作・秋野不矩美術館もほど近い。
 天竜川の支流・二俣川の水辺遊歩道や緑あふれる丘陵地散策、基幹ローカル線・天竜浜名湖鉄道の旅(同鉄道全線で合計36施設が登録有形文化財として登録済み)もお奨めです。
所在地:静岡県浜松市天竜区二俣町二俣1112
登録番号:22-0090
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 勲碧酒造  澤村喜久夫|
伊藤建築設計事務所
仕込み庫と貯蔵庫東妻面 道路に面する表門・離れ・土蔵  仕込み庫本屋小屋組み
■発掘者コメント
 江南市の南部、旧岩倉街道の小折交差点と五条川曽本橋を結ぶ道路沿いに、大正4(1915)年創業の勲碧酒造がある。道路に面して東より主屋、土蔵、離れが並び、表庭を挟み南側に醸造施設が建つ。
 創業時に建築された仕込み庫と貯蔵庫は桁行12間、梁間9間、土蔵造り2階一部平屋建て、切妻造り桟瓦葺きで、同規模の2棟が桁行方向で隣接する。両蔵とも建物中央の本屋(2階建て部分)の南面と北面に下屋を張り出し、この屋根構成が東妻のファサードに表れている。宅地化が進む田園風景の中にあっても、煙突と合わせてひときわ目を引く存在で、創建当時からこの地域の景観を形成しているといえよう。
 この本屋の軒より一段低い下屋は、2階南北面に換気窓を設けることを可能にし、本屋の柱にかかる推力に抵抗するバットレスの働きをしている。また仕込み庫の小屋組みは棟束から方杖を出して登梁を支え、和小屋の伝統構法を継承しながらも、洋小屋の架構技術が取り入れられている。
 敷地内にはかつて住まいとして使われていた離れ(昭和初期建築)や庭園のほか、杜氏や蔵人の宿舎が残る。これらの生活空間と酒蔵など生業の場は創業当時のまま残り、今なお造り酒屋として使い続けられているところに建築的価値がある。
 現在は4代目村瀬公康氏自らが杜氏として、地産地消にこだわって酒造りをされている。取材後、生原酒「美し稲穂・旭」を買い求め、真の地酒を味わった。毎年正月は新酒「初しぼり」で新春を祝うことにしている。
所在地:愛知県江南市小折本町柳橋88
問合せ:勲碧酒造(くんぺきしゅぞう)株式会社
    TEL 0587-56-2138