これからの都市計画とまちづくりを考える
第3回
ストリートウッドデッキの挑戦

村山顕人
(名古屋大学大学院環境学研究科 准教授
むらやま・あきと|名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻・准教授(工学部環境土木・建築学科/減災連携研究センター兼務)。
1977年生まれ。
2004年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了、博士(工学)。
東京大学国際都市再生研究センター特任研究員を経て、
2006年10月から名古屋大学に在籍。専門は都市計画・まちづくり。
2004年日本都市計画学会論文奨励賞受賞。
共著に『世界のSSD100:都市持続再生のツボ』(彰国社)、『都市のデザインマネジメント:アメリカの都市を再編する新しい公共体』(学芸出版社)など
錦二丁目長者町のまちづくりとストリートウッドデッキ
 名古屋市中区錦二丁目長者町は、第二次世界大戦後に発展した繊維問屋街を中心とする16街区です。産業構造の変化や長引く不況により、繊維問屋の機能が低下し、空きビルや時間貸し駐車場が増加する中、近年、魅力的な店舗や多様なスモールビジネスが進出したり、国際芸術祭あいちトリエンナーレの舞台になった影響で芸術活動が盛んになったり、地区の状況が大きく変化しつつあります。こうした前向きな変化の背景には、2004年3月に地区の地権者・事業者らが設立した錦二丁目まちづくり連絡協議会とそれを支援するNPO法人まちの縁側育くみ隊、さまざまな専門家の活動があります。私の研究室も参加しています。
 2011年4月に「これからの錦二丁目長者町まちづくり構想(2011-2030)」がまちづくり連絡協議会によって採択されるまでの話は参考文献1)を読んでいただくとして、ここでは、まちづくり構想の実現に向けて展開されているプロジェクトの1つ「都市の木質化プロジェクト」から登場した「ストリートウッドデッキ」(以下、SWD)を紹介します。SWDとは、道路の縦列駐車スペースの一部に設置するウッドデッキのことで、歩道の実質的拡幅、人々が一休みできる「街のリビングルーム」や新たな商業活動の場の創出、自転車の駐輪スペースの提供等に貢献します。
 
図1 木材を活用した街並みのイメージ2)
SWD の構想ができるまで 
 数名の専門家は、まちづくり構想を検討しながら、公園がない長者町の貴重な公共空間である道路をもっと人間や環境にやさしい形に改善できないかと考えていました。筆者自身は、ポートランドでウッドデッキの歩道を見つけ、サンフランシスコには“Parklet”(道路の縦列駐車スペースを小さな公園に転用し、デッキ、プランター、ベンチ、テーブルと椅子、彫刻、駐輪場などを設置する取り組み)があることを知りました。名古屋まちづくり公社名古屋都市センターの「緑ある快適な都心空間のあり方」に関する検討2)では、歩道や広場をウッドデッキとする提案をしていました(図1)。
 一方、名古屋大学では、環境学研究科・生命農学研究科共同の教育研究プログラムの中で、地域の森林の健全化に向けて都市内での木材利用を推進する「都市の木質化プロジェクト」が始まりました。
 2011年2月、名古屋大学の都市の木質化プロジェクトチームと錦二丁目まちづくりマスタープラン企画会議が連携してワークショップ「都市の木質化・『どこまでできるか?』チャレンジ:長者町リノベーションウォーク」を開催しました。森林関係者、建築家、住民、事業者、行政、各分野の研究者など合計約60名が一堂に集まり、各業界(森林、林産、建築、まちづくり)の現状と課題について共有した後、長者町を歩き、空きビル内部を見学し、木材の活用方法を提案するというものでした。関係者から高く評価され、当時とりまとめ中だったまちづくり構想に反映されました。
 まちづくり構想策定後、地権者や事業者が中心となり、専門家も加わり、さらに行政職員もオブザーバー参加する形で、長者町において都市の木質化を推進するプロジェクト会議が始まりました。建物や公共空間における木材の利用、ベンチの制作、木材を使った子ども向けイベントの開催など、さまざまなアイディアが出される中、SWDへの関心が高まりました。会議を重ね、SWDのコンセプトを検討し、アイディアを関係者に説明していくための文書(構想)を作成しました。プロジェクトメンバーの建築家には基本設計をお願いしました。 
   
写真1 SWD の仮置き(制作場所から会場までの間) 写真2 真夏の長者町大縁会で活躍するSWD
SWD の制作と実験的設置
 都市の木質化プロジェクト会議は、SWD構想の実現に向け、実際にSWDを制作し、長者町の各種イベントの際にそれらを実験的に設置し、本格設置に向けた課題整理を行うこととしました。2012年6月以降、8月上旬の「真夏の長者町大縁会」に向け、SWDの制作と実験的設置に向けた活動を展開しました。
 大学側では、テーブル・椅子タイプと駐輪場タイプの2種類のSWDを制作することを提案し、それらの実施設計と同時に、木材の入手と運搬の手配を進めました。ほかの取り組みの紹介やアンケートの実施についても検討しました。なお、SWDの制作と実験的設置にかかわる経費は名古屋大学リサーチアドミニストレーション室が負担するとともに、制作にあたっては多くの学生と教員、実務家の協力を得ました。
 一方、長者町側では、「真夏の長者町大縁会」の企画との調整、制作場所の確保、警察および市役所への説明などの準備が進みました。今回の「真夏の長者町大縁会」では長者町通を通行止めにしないことが判明したため、通行止めにしない状態でデッキを長者町通に設置することについて、名古屋市役所緑政土木局および愛知県警察中警察署に相談しました。その結果、現行の法律の下では、そもそもSWDの解釈が難しく、設置の許可ができないとの回答を得ました(ただし、社会実験として設置する可能性は見えました)。SWDを制作する場所については、長者町通沿いの吉田商事株式会社の1階スペースを使用させていただく幸運に恵まれました。SWDの道路への設置は当面諦め、「真夏の長者町大縁会」の会場である時間貸駐車場に設置しました(写真1・2)。大好評でした。
 その後、テーブル・椅子タイプのSWDは大学内に設置し、駐輪場タイプのSWDは長者町内に保管しましたが、11月の「ゑびす祭」の際、今度は通行止めになった袋町通に2基の既存SWDと新たに制作したもう1基のSWDを実験的に設置しました。さらに、祭終了後は、関係者のご厚意により、長者町内の名古屋センタービルの敷地内に、5/8の大きさに改造した3基のSWDを一定期間設置させていただくことになりました(写真3)。乾燥過程を経ていない水分を多く含んだ大断面の木材で制作したSWDは、数年後には、都市における自然乾燥の過程を終え、表面がきれいに削り取られ、建材、家具材などとして二次利用されます。 
 
 写真3 名古屋センタービルの敷地に設置されたSWD
5つの大きな挑戦 
 以上のように始まったSWDの取り組みには、次の大きな挑戦があります。
・ 地域の森林の健全化に向け、木材を都市の公共空間で利用し、木材循環の一部を担うこと
・ 都市の中に新しい公共空間を提供し、人々の生活の質の向上に貢献すること
・ これからの道路の活用方法について1つのアイディアを提供すること
・ これまで一緒に仕事をしていなかった異分野の専門家が協働すること
・ SWDの本格設置を可能とする制度を検討すること SWDの実験はまだまだ続きます。  
■参考文献
1) 村山顕人(2012)「まちなかサテライト研究室:錦二丁目長者町まちの会所」(アーバンデザインセンター研究会編著「アーバンデザインセンター:開かれたまちづくりの場」理工図書pp.111-114)
2) 名古屋都市センター(2009)「NUI レポート:緑ある快適な都心空間のあり方研究」