保存情報 第128回
登録有形文化財 西尾市岩瀬文庫 旧書庫  谷村 茂|
アール・アンド・エス設計工房
正面 側面 旧書庫3階 旧書庫地階より1階を見る 
■紹介者コメント
 岩瀬文庫旧書庫は鶴城公園の一角に新本館・収蔵庫棟、図書館棟に囲まれてひっそりと建っている。
 旧岩瀬文庫は、明治41(1908)年に西尾市内の豪商岩瀬弥助が私財を投じて独力で設立した私立図書館が始まり。図書館の設立資金は当時のお金で約3万円。同年5月に開館し、当初は、本館と土蔵造りの書庫、蔵書約27,000冊でスタートした。その後も本を集め、施設の充実を目指して大正5 ~ 10(1916 ~ 1921)年にかけて増改築を行った。現在は、古典籍から近代の図書、日本だけでなく中国や朝鮮のものまで含むその蔵書数は8万点余にのぼるという。
 現存する旧書庫は、名古屋の西原建築工務所の設計により、第2期工事で建設された。エントランス部の扉と上部のコーニスを見ている限り、とても地上3階と思えない高さだが、書庫と思えば納得できる。ところどころ外壁煉瓦は欠けているものの屋根の瓦や石造りの窓台、まぐさなどはしっかりしている。
 内部は毎年10月末の特別公開時以外は公開されていないため、残念ながら見ることはできなかったが、職員より写真の提供があった。その写真によると、床は木造在来、小屋組みは変形トラ
スのように見える。また、書架は湿気がこもらないように板を貼らず、床もスノコ状になっている。煉瓦造りの外壁と窓の鉄扉(現在はアルミ)は漆喰塗りの厚い壁とで耐火構造を形成し、結果的に季節や昼夜による温度変化をさえぎるようになっている。
 所 在 地:愛知県西尾市亀沢町480
      TEL 0563-56-2459
登録番号:23-0022
建 築 年:大正9(1920)年
構造・規模:混構造 地上3階地下1階
      (外壁煉瓦造、床・小屋組木造)
※内部の写真は西尾市岩瀬文庫提供
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 常照山 善光寺大本願飛騨別院   中澤賢一|堀内建築研究所
本堂と追悼碑(右) 虹梁と木鼻
■発掘者コメント
 常照山善光寺は高山駅から高山陣屋へ向かうその途中にあります。瓦屋根からの移行なのか、紅色のトタン屋根が多くを占める高山の町並みにあって、同じく紅色の鋼板で葺かれた本堂の姿は寺院としては一見不自然に感じてしまうものがあります。しかし本堂には虹梁がかかり、漠を模した木鼻が施されるなど、細部には寺院としての意匠が見られます。
 当寺は本寺大雄寺第四世的道の弟子玄貞が明暦4年(1658)年、大雄寺山内に創建。その後、寛政年間に焼失し、明治29(1896)年に本堂を現在の地に再建し、同30(1897)年寺号を善光寺と改称しました。日本全国で善光寺の寺号もしくは一光三尊阿弥陀如来(善光寺如来)が本尊の寺院は約600か寺ありますが、別院号を授かっているのは約20か寺。さらにご戒壇めぐりが設けられている寺は17か寺しかありません。当寺は宿坊としても開かれており、主に海外からの旅行者を受け入れているようですが、朝の法要後、ご戒壇めぐりを体験できます。 また本堂裏には極楽浄土への往生を願う人の、入信から往生に至る道筋をたとえた二河白道式庭園が広がります。その反対、本堂前には戦没者追悼碑が建てられています。これは軍民国籍を問わず第二次大戦で戦没された人々を追悼するものであると同時に、航空隊員として大戦を経験後、当寺住職を務めながらサイパン島での慰霊堂建立、テニアン島での慰霊遺骨収容の旅を毎年続けた、故 泉信潤上人の顕彰碑でもあるそうです。
 古い街並みを中心に観光コースに並ぶ数々の寺院も見どころがありますが、周囲の街並みに溶け込むこの寺からも多くの物語を読み取ることができます。門前に掲げられた額には「断ち切る勇気 続ける根気」と掲げられています。 

所在地:岐阜県高山市天満町4-3
    TEL0577-32-8470
交 通:JR 高山駅より 徒歩7分