保存情報 第127回
登録有形文化財 旧明(あきら)村役場庁舎  林 廣伸|林廣伸建築事務所
外観全景 1階内部 貴賓室中心飾り  鬼瓦
■紹介者コメント
 伊勢別街道は、関を出て楠原を過ぎると林の集落に入る。旧明村である。郷中に入り東進し集落中央部で直角に折れて南下する。「旧明村役場」はこの十字路の北東角に建つが、西脇の小道を北へ入ると明治7(1874)年創立の明小学校がある。また、東進すると大同元(806)年創建と伝わる普門寺に至る。
 役場庁舎は大正5(1916)年創建で、街道に接して南西角に門柱を構えている。平面形は矩形であるが、南西隅は道路角に対峙して隅切りし玄関ポーチを突き出し、ここを玄関としている。1階は客溜とカウンターを介して事務室があり、南東隅に階段を設け、その北側を和室としている。2階は1室の議場で南西隅からは玄関ポーチ上部の露台に出ることができる。外壁は下見板張で、南と西面は上げ下げ窓とし、他は引き違い窓としている。屋根は寄棟造り桟瓦葺きであるが、玄関ポーチ上に「明」をデザインした妻飾りを付した破風を見せ、正面性を強調している。
 背面では西側に貴賓室を設け、東背面部には宿直・小使い室を角屋上に突き出させ寄棟造りの屋根を架けている。
 役場庁舎の前庭には、現在では喬木が3本残っているが、当初は7種7本植わっていたという。明村が明治22年、忍田・楠原・中縄・楠平尾・林・萩原・福徳の7か村の合併により成立したことに由来している。なお、正門の石柱や敷地境の石積みも登録対象としている。また、当初の設計図である「明村役場建築工事之図」が残っていることも貴重である。
 この庁舎は、現在、特に玄関ポーチ回りの腐朽が進行している。所有者である津市も保存対策を講じているようだが、一刻も早い修理・公開が望まれる。
 ところで、伊勢別街道を下り街道沿いの一身田にある専修寺境内には、旧一身田村役場の遺構が現存し、「高田婦人会館」として活用されている。 
  所在地: 津市芸濃町林字向城346-2
名阪国道関IC から車で5分
参考文献:『三重県史』「別編 建築」(編集発行 三重県 平成15年発刊)
登録番号:24-0062(平成18年11月29日)
登録有形文化財 加佐美神社   澤村喜久夫/伊藤建築設計事務所
拝殿南面 石垣上段に幣殿と本殿を置く。手前が拝殿 本殿西面
■紹介者コメント
 加佐美山の麓に鎮座する加佐美神社は、平安時代に編纂された「延喜式」の神名帳にその名前の記載があり、各務郡七座のひとつに列せられている。名鉄各務原線六軒駅より、蘇原中央通り(県道192号)を真っすぐ北に行くとおがせ街道との交差点に来る。江戸時代の境内古地図には社殿の南方に一ノ鳥居から三ノ鳥居が描かれ、この古市場町の交差点に二ノ鳥居があったとされている。現在でも神社へ続く蘇原中央通りでは、亀甲積みの石垣や
黒板塀の屋敷が建ち並び、神社を中心に繁栄した往時の町並み景観をとどめている。
 加佐美神社は境内北側に石垣を設け、上段に本殿と幣殿を配置し、その南正面の石段下に拝殿を置く。本殿は貞享4(1687)年造営、三間流造り、屋根は檜皮葺きで、正面に千鳥破風を付け、身舎の周囲に縁と高欄を廻らす。向拝は身舎との間を海老虹梁で繋ぎ、組物は出三斗、彫刻絵模様は木鼻は獏、蟇股(かえるまた)には松・牡丹・鳩の彫物を付ける。虹梁上に大瓶束、両脇に龍の彫物を置き、その上に軒唐破風を設けた、見ごたえのある構造である。
 拝殿は石積基壇の上に建ち、桁行き5間、梁行き2間で入母屋造り、桟瓦葺き。四方内法貫下は開放の平舞台形式の建物で、床は板張り、天井は竿縁天井。延享3(1746)年に造営され、当時の茅葺きの割拝殿形式を天保2(1831)年に現在の舞殿形式に整えたとされる。
 幣殿は明治43(1910)年建造で、切妻造り、桟瓦葺き、桁行き6間、梁行き3間の規模で、本殿と接続する中央部では屋根を一段高く上げ、蟇股や格天井を組んだ格式の高いものである。
 各務原市では当地区を重点風景地区に定め、建築行為などに風景形成基準を設け、周辺の歴史ある集落景観の保全と再生に取り組んでいる。
 
所在地:岐阜県各務原市蘇原古市場町5-1-1
登録番号:21-0157(本殿)、21-0158(幣殿)
     21-0159(拝殿)