東日本大震災〈東北支部より〉      
3.11を乗り越える創造的復興に向けて  東北支部長 水戸部裕行 
 東日本大震災からまもなく1年になります。被災後の大混乱の中で、小田支部長はじめ東海支部の会員の皆さんには、多くの励ましの声をいただきました。大変心強く感じると共に、悲惨な光景を目の当たりにして、全国単一会のありがたさが心にしみる日々でした。改めて振り返り深く感謝を申し上げます。
 また、互いに厳しい財政事情にもかかわらず、東北支部に対し直接・間接の多額の支援金をいただきました。現在、復興支援活動を継続する上で欠かせない力となっています。重ねて、東海支部・地域会の会員の皆様に、心より敬意と感謝を申し上げます。
 東北は地震・津波に加え、原発の事故で長期にわたり、極度の緊張と恐怖状態に置かれました。この記憶は永く消えることはないでしょう。また、いまだに多くの住民が避難生活を余儀なくされている事実は、東北の人々の心に今も深い影を落としています。表向き平静さを取り戻しているように見え、一部には復興バブルなどと揶揄するような報道がなされていますが、2万人の犠牲者を生んだ大震災と原発事故の深い傷跡は、短時日で癒えることはありません。放射能の汚染による影響は、現地のみならず、東北全体の産業の衰退や住民の健康への不安など、今後長期に及ぶことが予測されます。
 このような厳しい環境の中で、支部の会員は懸命に戦っています。中でも福島地域会の会員は、置かれた現実を跳ね返そうと、施工会社に協力しながら木造仮設住宅の建設に幅広くかかわり、大きな足跡を残しました。この経験は、近い将来予測されるこの国のどこかの震災時に、必ず役に立つに違いありません。
 宮城地域会は石巻市北上地区での集団移転、国交省から受託した宮城県南部の災害公営住宅の計画検討業務に取り組むなど、具体的な復興に向けた懸命な活動を続けています。また、岩手地域会は三陸沿岸部の被災地を隈なく回り、詳細な調査の報告をまとめています。
 これから本格的な復興への動きが始まり、建築家としての力を必要とする場面が今後飛躍的に増えると予測されます。被災地は長い再生への一歩をようやく踏み出したばかりですが、東北支部はこれまでの地道な活動の実績を生かし、全国の会員の協力を得ながら、「創造的な復興」に向けて頑張ってまいります。
 まだまだ困難な状況が続きますが、JIAの同志として、今後ともご協力と応援をよろしくお願い致します。 
復興支援活動とさまざまな連携 東北支部復興支援委員長 松本純一郎        
■甚大、広範囲で複合的な災害 
 今回の災害は、広範囲にわたる地震・津波という自然災害に加えて、原発事故という文明的災害が加わり、一層複雑な災禍となってしまいました。東北3県に限っていえば、人的被害としては死者15,778名、行方不明者3,446名、避難者71,803名(2012.1.10現在)となっており、住宅・建物被害としては全壊・半壊数が3県で318,347件という膨大な数に及んでいます。そして死者・行方不明者のうち約9割の17,000名余りの方々は津波による被災者であり、避難者の約8割が福島第一原発事故により避難している人々です。あの信じられない大災害が起こった日から、すでに1年近くが経過しましたが、被災地では瓦礫の撤去が終わりつつあるだけで、復興についてはその方向性も見いだせずにいます。災禍はいまだ続いています。
 我々人類がつくり出した科学文明の敗北を認識し、徹底的な検証を行うことによって、自然と人間の関係を再構築するという基本理念を踏まえた復興を望んで
います。 
■ JIAの初期支援活動 
 ご存じのようにJIAでは震度6弱以上の地震災害に対して、本部に災害対策本部が、被災支部に現地災害対策本部が自動的に設置されることになっています。東北支部では3月11日に現地災害対策本部を設置し、災害対策支援活動および復興支援活動に当たってきました。初期支援活動における各県の対応はマチマチでしたが、宮城県ではJIA東北支部に対して直接支援要請があり、3月15日の仙台市の応急危険度判定作業を皮切りに、宮城県内各市町村の応急危険度判定・被災住宅相談、そして名取市の住家被災度調査などに5月一杯携わりました。
 これらの初期支援活動には、関東甲信越支部の各地域会会員が積極的に参加してくださいました。初期支援活動としては異例の3か月間を要し、5月末をもってこれらの活動はほぼ終了しましたが、会員の献身的な活動が実を結び、JIAとしては初めて国土交通省から表彰を受けることができました。 
■福島地域会の木造応急仮設住宅の 提案    
 福島県で4月11日に公募された応急仮設住宅約4,000戸分のうち約1,700戸について福島地域会が地元建設業協会と協力し、木造仮設住宅を提案し、その配置計画、基本プラン、工事監理に携わりました。会員たちの献身的な努力により、新しい応急仮設住宅のあり方を示すという大きな成果を残しました。福島地域会では地域の新しい復興住宅の提案作業に専念しています。
■岩手地域会の三陸調査活動 
 4月27日、岩手地域会では三陸調査委員会を設立し、報道機関には取り上げられていない岩手県内の数多くの被災集落などに焦点を当て、建築家の目で調査・記録する目的で、100か所近い集落を調査・記録し、今後の復興に生かす予定です。また8月には陸前高田市の「学生復興会議」に会員たちが参加協力をしました。JIA会員が市長を務める北上市に「きたかみ震災復興ステーション」が学会主導で立ち上がり、今後、多くの団体などと連携協力し、復興支援に当たります。 
■連携から広がる復興支援活動    
 東北支部では初期の災害初期支援に引き続き、復興支援を積極的に展開するために、4月1日「復興支援委員会」を立ち上げました。若い会員からの強い要望でJIA宮城復興支援委員会と共催で「復興のためのまちづくり勉強会」を近畿支部や新潟地域会の会員の協力を得て、4月から8月まで10回にわたって開催しています。そのような中で、4月28日には(財)宮城県建築住宅センターが「石巻市震災復興基本計画策定業務」を受託し、これまでの繋がりから一部を宮城地域会が担うことになりました。今日、若手会員が精力的にかかわっている石巻市北上地区集団移転計画に携わるきっかけとなりました。
 その後、各被災地に活動や連携の拠点をつくろうということになり、6月19日に「石巻まちカフェ」、8月7日には「閖上まちカフェ」をオープンし、亘理町では会員が中心となり「復興非営利法人わたり・あらはま」を設立しました。また9月には仙台市から住家被災度調査の第2次、第3次判定への協力要請があり、現在も宮城地域会会員を中心に困難な作業に携わっています。さらには、11月に国土交通省の企画競争「災害公営住宅の調査及び基本計画策定業務(宮城県南部)」に東北支部を含む3者で応募し採用となり、現在プロジェクトチームを結成し、日々精力的に取り組んでいます。  
 全国のJIA会員の方々が被災地のことを想い、それぞれの立場から何らかの行動を起こされました。東北支部においても、会員それぞれが各々の立場で各々の役割を担い、協力し合いながら今日まで支援活動を行ってきました。今回の災害支援におけるこれまでのJIAのさまざまな成果は、こういった連携、協力の賜です。同時に、これまで見てきたように、他の組織や人々とのさまざまな連携が、今回の我々の災害支援活動の場を広げてきたといえます。
 今後の復興支援活動においても、行政、住民、他分野の専門家、大学、各種団体、企業、海外の協力者などと積極的に連携しながら、建築家としての役割を果たしていくことが重要だと考えています。