Jプロフェッショナルセミナー愛知 2011 -建築家実務講座-
「構造」 シーズン1 第7回

回「 より良い建築をめざして―構造計画 建築設計者と構造設計者の協働」

講師:大野富男氏( ㈱日建設計)

(高嶋繁男/黒川建築事務所)
会場の様子 講演する大野富男氏
 1月19日(木)に総合資格学院名古屋校にて開催した。参加者は30名(JIA15名、士会9名、事務所所員5名、JSCA1名)であった。
 今回がシーズン1の最終回である。今回は、JSCA構造設計実務者研修「基礎編」のテキストはなしで、前JSCA中部支部長の大野富男氏にお願いした。大野氏が携わった名古屋駅前にあるミッドランドスクエア、ルーセントタワーとスパイラルタワーズについて話を伺った。
 ミッドランドスクエアは、低層棟と高層棟とにエキスパンを設け(そこにもダンパー設置)、高層棟の柱が負担する軸力が大きいことから、深さ72mで中間と先端で拡底した杭を採用したパイルドラフト(杭と直接基礎併用)で計画し、鋼材は高張力鋼の780N/mm2を使用し、スレンダーな建物としている。
 ルーセントタワーでは、外壁が傾斜している(TV電波の反射障害を少なくするための工夫)。そのことにより、柱の傾斜と各階の重心のズレにより長期的に横に押す(スラスト)力が中地震動並みの大きさで加わることを踏まえて計画している。また、隣接する地下構造物(深さ約30m)は、地下水位がGL-3m程度のため、浮き上がりを防止するために重くする工夫をしている。
 どちらの建物もダンパーを設け、揺れを長引かせない、鋼材に累積的な損傷を与えないなど長周期地震への対応をしている。日本では、阪神・淡路大震災以来、免震構造、ダンパーによる制震の動きが加速し、それ以前の建物は、長周期対策を検討し始めている。
 スパイラルタワーズは、当初のコンペ案作成段階で、意匠側から提示されたイメージを実現するため、さまざまな構造計画の検討を経てまとめられていることを、具体的スケッチ、モデルの解析についてコメントを加えながら見せていただいた。
 直立するセンターコアに、3つの円弧状の教室群が階毎に位置を3°ずらし、面積を1%縮小しながら接続する、インナーチューブと外周架構による構造である。制振装置を屋上と柱(斜材よりも外周柱軸方向の変形が大きいので)に設け、ねじれ防止のため、地下ではインナーチューブから地下外周壁に向かって放射状に耐力壁が配置されている。
 コンペ案をまとめるに当たって、意匠のイメージを大きく変えて形態の魅力を落とすことは避け、常識にとらわれず、原案の形を実現する構造をめざした。さまざまな問題点を整理しながら、形状の単純化を指向し、構造計画をまとめた。
 基本設計段階ではコストダウンを図ることが求められ、検討した結果、外壁面を円錐状の面状にすることにした。これはコンペ案と大きく変わらず、部材の標準化、合理化によってコストダウンを達成したもので、満を持してクライアントに説明した。ところが、モード学園学長の谷氏は、その提案に対し、「論外である」(全
く形が異なる)とコンペ案の形態を求められた。
 大野氏は、構造の大家である坪井善勝氏が、「美とは、合理性とちょっとずれたところにある」と言っておられた言葉を思い出し、形を変えずにコストを下げる工夫を検討された。具体的には、インナーチューブを斜材の構成から直柱とし、外周架構のブレースを削除し、柱に制振カラムを設置した。センターコアは直になったが、外観の曲線のフォルムは変えず、外周のブレース材をなくすことにより、すっきりとした表現ができた。
 説明を受けた3つの建築とも、規模が大きくなれば作用する力も大きくなるため、どのように架構を考えていくのか、当初デザインのフォルムを尊重した幾つもの検討案が作成されている。コストを踏まえて期待にこたえていく、その過程を分かりやすく説明いただいた。
 優れた構造設計者だからできた建築だが、そのフォルムをイメージした意匠設計者も優れていなければ、実現できなかった。ましてや、スパイラルタワーズはクライアントのフォルムへのこだわりなくしては、今のフォルムで実現しなかった。その協働作業の過程を構造の視点から分かりやすく、興味深い話をいただき、大変、感謝しております。