ニューイングランドの住まいと暮らし
第6回
年が明けて、帰国が近づく

桜井のり子(金城学院大学生活環境学部教授)
2009年1月
 12月中旬には秋の学期が終わり、春学期開始の1月中旬まではお休みで学生はほとんどいなくなります。
 日本に帰省しない日本人留学生とともにお正月を祝いました。院生のW君がニューヨークに行くついでに栗甘露煮、かまぼこ、イクラ、数の子、田作りなど、出来合いのモノの他にゴボウ、蓮根などを買ってきてもらい、ボストンの北部ケンブリッジにある日本食品店の「Kotobuki」にも買い出しに行きました。ボストンの地下鉄レッドラインの「Porter Exchange駅」前のビルにあります。ハーバード大学近くでビル内にはすしバー、天ぷら屋、居酒屋、うどん屋、ラーメン店などがあり、ちょっとした日本のようです。イクラ、まぐろの刺身、ぶりの切り身、ミツバ、栗きんとん、昆布巻き、野菜天、大福、あげ、納豆、豆腐、ネギ、カボチャ、だし醤油、味醂などを買い込みました。
オバマ大統領就任式 
 1月20日は記念すべき第44代大統領就任式です。17日にはフィラデルフィアからワシントンDCまで大統領特別列車が仕立てられ、就任イベントが始まりました。
 ワシントンDCには200万人以上の人が集まり、全国あちこちでもcommunity gathering(地域の集まり)が開かれています。一緒に就任式を見るという催しです。ロードアイランド大学のキングストンキャンパスでも4か所で開かれました。平日ですから、通常の業務の合い間に食堂のあるMemorial Union(学生会館)に集まります。大画面のテレビ中継のほか、ケーキと飲み物のサービスがありました。午前11時頃から議員や家族が就任式会場に登場しますが、ミシェル夫人や2人のお嬢さんマリア、サーシャが映ると会場は拍手で反応します。最後にオバマ氏が登場すると一段と拍手が大きくなりました。11時30分ごろからセレモニーが始まり、宣誓に続く大統領の就任演説にも拍手とスタンディングオベイションです。ロードアイランド州は伝統的に大統領選では民主党が勝ってきた州で、今回も無風区だったので、どちらの陣営のキャンペーンラリーも来ませんでした。選挙中のオバマ陣営の熱気はテレビで見るだけでしたが、この日はロードアイランドの人も熱くなっていました。 
オバマ就任式 017 オバマ就任式 005  ワシントンDCとデラウエア 247 
大統領就任式を大画面で鑑賞  大統領マークのシート・ケーキ Winterthur Museum |収集したアメリカ近代の様式家具に合わせて、各部屋の内装も各地から集めてきたものだそうです。暖炉、ドア、窓など
ワシントンDCとデラウエア 126 ワシントンDCとデラウエア 143 ワシントンDCとデラウエア 290
アメリカ歴史博物館|合理的に整えられた現代キッチン―料理研究家ジュリア・チャイルドのキッチンの内部再現 アメリカ歴史博物館| 1950 年代、郊外建売住宅の広告

Kennett House の外観

 
ワシントンDC と Winterthur Museum
 2月末、帰国が迫る中、19世紀から20世紀初めのホーム・インテリア関連資料を求めてWinterthur Museum(デラウェア州)に出かけるついでに、ワシントンDCまで足を伸ばしました。DCのホテルは週末の金・土には議会関係者が地元に帰ることから空室が増え、ディスカウントがあります。日曜日になると彼らが帰ってくるので2倍以上に跳ね上がります。DCの中心部には、国会議事堂から西側に向かってナショナルモールという広場があり、ワシントン将軍の記念塔、リンカーン記念館につながっています。ナショナルモールは、大統領就任式で大勢の人で埋まった様子をテレビで見たところです。モールを取り囲むようにスミソニアン博物館群が並び、そのほとんどは無料で入れます。国立アメリカ歴史博物館で市民生活の展示を見るのが主たる目的でしたが、近代の生活革新の様子は大変興味深いものでした。
 2泊したのち、DCのユニオンステーションからAmtrak(列車)でデラウェア州 Wilmingtonに移動。Amtrakは全米に路線網を持つ鉄道です。ボストンからワシントンDCまでAcela Expressという特急で6時間半かかります。改札はなく、車掌さんが検札に来るのですが、確認した乗車券を座席の上の棚のところにはさみ、降車駅が近づくと教えてくれるので乗り過ごしを防げます。
 Wilmingtonには化学製品で有名なデュポン社の本社があります。デュポンファミリーは18世紀末にフランス革命から逃れてきた貴族で、デラウェア州一帯で財をなしました。旅の目的はデュポンファミリーの1人が設立したWinterthur Museumの図書館です。アメリカの独立以来の様式家具の収集とそれに合わせたインテリアの部屋からなる豪邸がMuseumになっていて、図書館はインテリアデコレーション関係の資料が豊富なことで知られています。ケネディ大統領夫人のジャクリーンさんはこのMuseumのアドバイスを得てホワイトハウスのインテリアをしつらえたということです。
 Winterthur Museumは広大な農場の中の邸宅ですが、雪の残る中、羊が草を食べている姿が見えました。Winterthurという名は一族の1人の故郷であるスイスの小さな町に由来し、「ウィンターサー」ではなく「ウィンタートゥール」と発音します。
Kennett House 
 図書館での資料コピーが1日では終わらないので、もう1泊することに。前夜のモーターインは一部屋朝食付き69ドル(2人)の安さでしたが今一つだったので、Museumの観光案内パンフにある B&Bに電話しました。朝食付き135ドル(2人)で、特別に10%ディスカウントしてくれるといいます。交渉の過程で道順を聞き返していると、「1番目のexitを出て…」日本語でした。驚いて「日本人ですか」と聞くと「違うけど、ちょっとだけ」との答え。
 隣のペンシルバニア州に少し入った Kennett Squareという町にある立派な石造りの建物でした。ここには南北戦争前後の地下鉄道があったということです。実際の線路があったというわけではなく、奴隷の逃亡を助けるグループの拠点だそうで、南北の境界地域としての生々しい歴史が感じられます。
 日本語を話す女主人は韓国出身で、亡くなったご主人が日本人とか。ローズウッドの木部が美しいプライベートバス付きの部屋とおいしい朝食で大満足でした。 
帰国へ
 Winterthurから帰ってきたら、慌しく帰国準備です。車や家具の処分、日本への荷物の送り出しに追われました。車は日本人留学生のW君が買い取ってくれ、家具や衣類はCraigslistで売ったりする元気はなくて“Habitat for humanity”などに連絡して無料で引き取ってもらいました。
 1年間、拙文にお付き合い下さり、ありがとうございました。日々の暮らしのことを中心に綴らせていただきました。紙面をお借りし、感謝申し上げます。 (了)
   さくらい・のりこ|
大阪市立大学大学院博士課程後期中退、1992年より金城学院大学に勤務。
現在、金城学院大学生活環境学部教授(住生活論、インテリアデザイン史などを担当)。
2008年4月~2009年3月アメリカ合衆国ロードアイランド州立大学客員研究員