Jプロフェッショナルセミナー愛知 2011 -建築家実務講座-
「構造」 シーズン1 第2回

総合的なデザインにとっての地盤調査、基礎の計画と設計

講師:宿里勝信氏(㈱竹中工務店)


(高嶋繁男/黒川建築事務所)
 プロフェッショナルセミナーの第2回を7月21日(木)に総合資格学院名古屋校にて開催した。参加者は38名(JIA18名、士会17名、事務所所員8名、JSCA2名)であった。7回のシリーズで講師は(社)日本建築構造技術者協会中部支部(JSCA)の協力を得て、実務経験豊富な優れた構造設計者を選任していただいた。今回の講師の宿里勝信氏は、今年よりJSCA中部支部長を務めておられる。
 第2回からは全般でなく個別のテーマとなる。意匠設計者向けのセミナーなので、専門的な知識をどの程度理解しているか、個人差により、セミナーの満足度が変わるのは避けがたい。しかも今回のセミナーは、若手意匠設計者にも具体的に分かりやすい説明が得られる実務上からも貴重なセミナーとしてお願いしているので、構造設計者向けのセミナーに比べ、大変なお手数をお掛けして、平易な言葉で説明いただいた。主にJSCA構造設計実務者研修「基礎編」第Ⅱ編地盤調査と基礎の設計をベースに説明を受けた。
内容は、断片的になるが、例えば、
・土の特徴として、ばらつきが大きく弾性体でなく元には戻らない。
・土のしまり具合を表す間隙比(気体+水分の体積)/(土粒子の体積)は砂が0.5 ~1.0、粘土1.5 ~3.0、ぱちんこ玉で0.35。
・地盤調査によるN値は土質により評価が変わる。
・基礎底を深くすれば、土被りが増え支持力が得られるので、構造設計者は、基礎を深くする。
・杭における周面摩擦力は、杭先端まで支持力を伝えることがないほど大きい場合もあるが、地盤沈下によるネガティブフリクションにより支持杭にとって不利に作用する場合もある。
・液状化については、地表面から20m以内に砂質土などがあり、地下水が飽和していると発生しやすい。地盤調査では粒度分布の調査が必要で、その簡易判定方法の説明を受けた。
・液状化対策としては、杭を非液状化層で支持し、曲げ耐力を割り増すか、液状化層での地盤改良となる。
 また、建物下地盤を格子状に区画した地盤改良により、横揺れを小さくし防止した実例などを見せていただいた。阪神・淡路大震災や今回の東日本大震災においても、その対策の有効性は確認されている。
 その他、最近の経済的な基礎の工法としてパイルドラフト(杭併用べた基礎)を紹介していただいた。べた基礎による直接支持と杭による周面摩擦による支持であり、いわば、異種基礎である。最近は計算により検証できるようになった。深い支持層まで杭を設置する場合に比べて経済的で、環境負荷の低減にもなることから注目されている。
 最後に、東日本大震災での被害状況についてスクリーンに投影し、今回のテーマの視点から説明をしていただいた。 
 会場でアンケートをとりセミナーの感想をいただいている。予想以上に好評であった。ただ、「難しい」「簡単すぎる」と両極端な感想と、もっと「実務的に興味を引くような話も聞きたい」など、ニーズの多様さと関心の深さを感じている。本セミナーの今後の課題と受け止めている。
 そこで、次回のテーマで講師に聞きたいことなどをあらかじめアンケートで集め、講師に伝えている。また、セミナーの最後で質疑応答の時間をとって時間の許す限り参加者の関心にこたえるようにしている。
 知識の一方通行でなく、双方向でセミナーを継続し、設計をまとめる意匠設計計者にとって有益な機会になるよう、第3回以降もJSCAの協力を得ながら進めていきたい。
 宿里勝信氏には平易な言葉で説明を工夫していただき、改めて感謝の意を表したい。 
講演する宿里勝信氏 会場の様子
〈参加者の声〉
●意匠設計者にとって、どの程度、地盤や基礎を意識しながらデザインやプランニングに取り組めばよいのか、またそうできるようにという思いから参加させていただきました。
 特に土の特性や土質試験の種類とその意味、そして試験結果の見方の項は非常に参考になり、普段は(少なくとも私の勤務する事務所では)構造設計者に判断を仰いでいる部分も今後は意識して確認してみよう、そう思える内容でした。
 さらに液状化についても再認識することができ、今回の震災の写真を用いた説明にリアリティを持つと共に、その対応策にも興味が持てました。講習会終盤の「不動の大地と考えてはならない」という言葉が非常に印象的でした。(奥山拓人/野口建築事務所)
●今回の講座は地盤調査・基礎に関する講義ということで、3.11の大地震の影響もあり、大いに関心のある分野でした。東京や千葉などの多くの埋立地において地震での液状化による地盤沈下が発生しており、そのリアルタイムな話はとても興味深く聞かせていただきました。また、土のせん断強さや粘土の圧密現象、間隙比による土の強度の説明など、地盤についての性質を詳しく知るきっかけとなりました。
 それと同時に、自分の知らないことがあまりにも多過ぎるという事実も思い知らされました。建築を建てる際には、その土地固有の地盤が当然あり、それに最適な基礎を選んでいくには…と考えていくと、業務を通して、また自らがもっともっと学んでいかなければいけないと強く感じました。貴重な機会を与えて下さり、ありがとうございました。
(山崎卓史/中建設計)
●土の強さはせん断強度で決まる。これまで自分の中で断片的かつ漠然としていた地盤に関する情報を、今回の講義を聞き、意匠設計という意味において一つの知識へと昇華させることができたように思う。
 また講義終盤では、東日本大震災における建築物の被災事例などの最新の情報も解説していただき、大変興味深い講習会でありました。(高橋卓也/塚本建築設計事務所)
●建築設計を行なっていく上で業者に任せっきりにしがちな地盤調査ですが、今回の講義や東日本大震災の件で、建物にとってはまさに一番重要なところだと再認識しました。その土地に合った地盤の改良方法やその特性を理解した上で、今後の設計に生かしたいと思います。貴重な講義をありがとうございました。(松井基悦/塚本建築設計事務所) 
●私は日頃から、建築の最も重要な部分は建物全体を受ける基礎と支持する地盤だと思っていましたが、このあたりの検討や判断はなかなか自身ではできなくて、構造設計者に任せるところが多々ありました。今回の講義は特にプロフェッショナルな講義で、今まであやふやに理解していた部分が確信になる大変有意義なものでした。
 また、東日本大震災のケーススタディも興味深く聞かせていただくことができました。(竹森篤史/東海・ビルド一級建築士事務所)