Jプロフェッショナルセミナー愛知 2011 -建築家実務講座-
「構造」 シーズン1 第1回

総合的なデザインにとっての構造計画・構造設計概論

講師:飯嶋俊比古氏(飯島建築事務所)

(高嶋繁男/黒川建築事務所)
 第1回を6月23日(木)に開催した。参加者は45名で(JIA18名、士会17名、事務所所員8名、JSCA2名)定員40名を上回る人気だった。
 今回の実務セミナーは、7回にわたって意匠設計者を対象に、構造に関する計画、構造種別による特徴・知識、実務上の判断・とらえ方、構造設計者との協働についてお話をお聞きする。講師は、(社)日本建築構造技術者協会中部支部(JSCA)の協力を得て、実務経験豊富な優れた構造設計者を選任していただいた。
 第1回のテーマは、構造全般にわたって分かりやすい説明を優れた構造設計者に求めるという贅沢なセミナーであった。全体を通してのテキストはJSCA構造設計者実務研修[基礎編]をベースにしている。飯嶋氏には、オリジナルのテキストを用意していただき、意匠設計者向けに分かりやすい説明をしていただいた(大変、感謝しております)。
 セミナーでは、建築における構造だけでなく身の回りのさまざまなもの、形あるものには構造がある、そのしくみや組み立て、成り立ちを興味深く説明いただいた。「構造が分からない」と反応する前に、その形におけるそのしくみや組み立て、成り立ちを見てとらえることは誰にでもできる。構造計算ができるかでなく、その視点でもって空間構成、しくみのイメージを持つことが、意匠設計者に求められることである。さらに、その空間構成の秩序、バランスは構造設計者に委ねるものではなく、構造が分かる意匠設計者が主体的に取り組み、構造設計者の協力を得て合理的な形がスムースに誕生する。大事な基本の話をいただいた。数式などが何もない構造の話を2時間半、集中して過ごせたことに感謝しています。
 さて、今回のセミナーは、若手意匠設計者にも具体的に分かりやすい説明が得られる、実務上からも貴重なセミナーとして考えていることから、参加いただいた若手意匠設計者の感想を以下に紹介させていただく。
講演する飯嶋俊比古氏 会場の様子
〈参加者の声〉
●学生時代、私は「構造」が苦手でした。モデル化した物体に、これまたモデル化した力をかけ、数字を並べて答えを出す。そんな無機質なイメージが邪魔をしていたからです。ですが、今回のセミナーは、私の「構造」への苦手意識を取り払ってくれる、大変おもしろい授業でした。
 セミナーは、「総合的なデザイン」というテーマ通り、建築に限らず、私たちの身の回りに存在する、あらゆる物にスポットが当たりました。植物、生物、家具…。中でも印象に残っているのが自転車の構造です。さまざまなパターンのフレームを見比べ、どれが合理的でどれが非合理的かを、力の流れを示しながら説明していただきました。
 セミナーの終盤、中部大学の武田邦彦教授の言葉が幾つか取り上げられました。その中に、「無理やりでなく自然に覚える」という言葉がありました。「構造」は、私たちの生活の中に存在しています。身の回りの物に、少しの疑問を持つ。それが、「構造」の知識と感覚を身に付ける、最大の近道なのかもしれません。
 このような機会を与えてくださった皆様、ありがとうございました。(森 美欧/中建設計)
●建築のみならず、そもそも構造とは、という話を聞き、構造・しくみを理解するための第一歩は、まずは観察することがとても重要なことだと考えるようになりました。そして建築において、構造設計とは何か、構造と構造力学とは何か、意匠設計者がすべきこと、構造設計者が知りたいことがどんなものかを、改めて整理しなおし理解できたことは、今後に生かせることになり、大変有意義な講習会となりました。(高橋卓也/塚本建築設計事務所)
●基礎的な構造のしくみや、構造的な観点からの空間のとらえ方、構成のしかたなど、意匠設計をする上で最低限押さえておくポイントを理解できました。普段は意匠を優先しがちですが、構造とのバランスを考えプランすることの大切さを教えていただきました。これからの設計に生かせる講義をありがとうございました。 (松井基悦/塚本建築設計事務所)
●建築設計が分業化する中で、構造や設備設計者が普段どのような考えで仕事をしているのか、また意匠設計者としてどのように構造、設備と接しながら設計というものをまとめていけばよいのか、今回の講習会はそうしたことについて、普段の設計業務とは別の視点で生の声に触れられる機会かと思い、参加させていただきました。
 構造設計者の立場からの意匠設計者への要望や、建築構造ではない物を事例に挙げた構造の成り立ちの説明などを通して、新たな物の見方に気付かされると共に、実務において特に「どうしたいか」を整理整頓して主張することがとても大切であることを改めて認識できました。次回以降も楽しみにしています。(奥山拓人/野口建築事務所)
●構造についての自分の知識を少しでも増やせたらと思い、講義に参加させていただきました。飯嶋先生の講義は予想をはるかに凌駕するほどおもしろかったです。街を歩いていて見かける標識や、駅の上屋などの構造の分析やツッコミのお話は、今後そういう視点で街を歩いてみようと思わされました。
 構造設計からの視点での意匠設計の在り方についてのお話も大変興味深く、飯嶋先生の言う「鼻血の出る建築家」にならないように努めていこうと思いました。楽しく、ためになる機会を与えてくださいまして、感謝しています。(増田陽介/東海・ビルド一級建築士事務所)
●今まで「構造」と聞くと、難しく考え後ずさりしていた感がありました。しかしながら、構造の理解なくして建築士とはいえないと思い、自己啓発のため、今回受講いたしました。いざ意気込んで席に着いたのですが、冒頭、飯嶋先生に「構造は難しいことを考えなくても、空間の仕組みを理解し、何がしたいかを伝えられれば良い」とシンプルに答えていただき、不得手な自分にとっては少し救われた気がしました。
 また、いつもお世話になっているエンジニアの方には歯がゆい思いもさせているだろうなと改めて感じ、反省しています。今後も地道に受講し、一歩ずつ構造に歩み寄っていければと思います。(竹森 篤/東海・ビルド一級建築士事務所)
●構造といえば、「ハード」的なイメージを持っていましたが、本セミナーでは構造の「ソフト」面について触れた貴重なお話をしていただけたと思います。意匠設計者の立場として、「構造をイメージして設計する」ことが建築を美しく創造するために重要だと感じさせられた講義でした。
 意匠設計者の言う「構造が分からない」とは「構造力学が分からない」のであり、意匠設計者が考えるべき構造は構造力学とは全く別物だという点、そして、意匠設計をする上でイメージする構造は自然界に無数のヒントが存在するという点が印象に残りました。「葉がちぎれる→葉が丈夫に枝についていれば枝が折れる→枝が堅固であれば幹が折れる→幹が堅固であれば根から抜ける」。 自然界のいろいろなヒントを注意深く観察しながら、構造力学とは別に、構造をイメージすることを学んでいきたいと思いました。(犬塚恵介/伊藤建築設計事務所)