ニューイングランドの住まいと暮らし
第2回
住まい探しの楽しみあれこれ

桜井のり子(金城学院大学生活環境学部教授)
 1989年、夫が文部省の在外研究員派遣でURI(ロードアイランド州立大学)に来たとき、私と次女が同行しました(長女は当時オハイオ州の高校に交換留学中)。大学の外国人教員アパートの2階に住むことになりましたが、レンガ造2階建てのかなり古いもので、階段ホールを挟んで各階2戸ずつでした。1階にはイラン人の薬学部教授ZIA先生一家、その向かいにはトルコから来た若い先生カップルとルームシェアの学生、2階の我が家のお向かいさんはロシアから来たユダヤ人数学者一家でした。
 ZIAさんのユニットの上が私たちの部屋で、3寝室1バスルームに16畳くらいのリビング、6畳くらいのキッチンと十分すぎる広さでした。冷蔵庫やオーブンは大体どこでも基本設備で、当時の家賃は暖房費、水道込みで650ドル(当時の日本円で8万円くらいでした)、電気、電話は個別に契約しました。事前の連絡では家具付きということでしたが、着いてみたら何もなしで、あわてました。
 ZIA家はフセインと専業主婦の奥さんプーランと3人の子供(大学院生、大学生、小学生の3人の息子)で、プーランは面倒見がよく、たまにはよすぎるくらいでした。あるとき、突然日本語の電話がかかってきました。現地に知人がいるわけでもなく、どういうことかと思うと、プーランが知り合いの日本人女性に“2階に日本人家族が来たので、面倒見てあげて”と伝えたのです。驚きましたが、おかげでそのときの日本人女性ヨシコさんとは今でも親しく交流が続いています。
 プーランは料理上手で私たちもときどき恩恵にあずかりましたが、イラン人グループのパーティがよく開かれ、賑やかな声が響く家でした。大勢のお客があるときには、冷蔵庫が一杯で入りきらない食材を我が家の冷蔵庫に入れてと突然持ってきたこともありました。我が家にとって大きすぎる冷蔵庫の中はガラガラでしたから。  
     
 20年前に住んだアパート
(2008年4月撮影)
 ZIA家のリビングにて ZIA夫妻の食卓 
今回のひとまずの落ち着き先
 今回は、前のアパートが教員用から大学院生用になっていて入居できないとのことでした。仕方なく大学が紹介している周辺のアパートなどを出発前にネットで検索してみたのですが、やはり実際に見ないと決められないので、当面、近くのB&Bに宿泊する予定を立てました。出発前プーランに連絡をしたところ、とりあえず1週間ゲストとして彼らの家に滞在するようにと言われ、甘えることにしました。彼らは、約15年前に大学から歩いて15分位の住宅地に一戸建ての家を買ったのですが、4分の3エーカー(約900坪)の土地に小ぶりな住宅がついています。斜面に建てられており、半地下の部分には1寝室のアパートをつくっていました。上階のリビングに上がると軽井沢のような光景が広がってとても素敵なのですが、地下室の小さな窓からはほとんど外が見えません。
 1週間はゲストということで、おいしいイラン料理を毎日食べさせてもらいました。魚の蒸し焼きやチキンの煮込みに細長いライス付きです。食事ごとに違う料理が並び、野菜たっぷりのサラダとともにいただきます。プーランはお料理上手なだけでなく、室内はいつもきれいに掃除し、靴は玄関で脱がされます。イラン人も最近は室内で靴を履くそうですが、伝統的には上足文化で彼らは上靴をはいています。私たち日本人が靴を脱ぐ習慣なのも親近感を持たれました。
 ZIA家のアパートは、LDKに1ベッドルーム、1バスルームの住戸です。夫妻は以前から地下のアパートを人に貸したいと思っていたものですから、私たちも強く勧められました。私たちも、いろいろ面倒見てもらえるのは楽かなと考えましたが、窓がほとんどないのと、台所の換気に難があったので、別を探すことにしました。
  北側は床上2mくらいが地下なのでその上に小さな窓がある
床上1mくらいまでが地下なのでその上に大きな窓がある

外の庭を見ながら食事をする   
 ようやく見つかった借家。
南の庭から。2階建てに見えます
地階平面図 
 
南の窓から見た庭の景色   1階平面図
やっと見つけた住まい
 大学近くの古いアパートと車で10分のWakefield の町にある1870年築のVictorian House 、またきれいなビーチで人気のNarragansettにあるサマーハウスの3件を見ました。アパートはRt.1沿いの宿屋(連載1回目参照)で、地元の保存協会が管理している物件です。古くて雰囲気がありますが、他の住人が学生で、うるさいからやめた方がいいと周囲にアドバイスされました。次にWakefield(この辺りの中心街−といっても3階建ての建物はあまり見当たらない)の築140年のVictorian Houseは1,200ドルで私は一番気に入りましたが、大学から少々遠くて不便だという夫の抵抗にあいました。すでにリタイアしていた夫は、大学の日本語クラスのアシスタントを務める予定だったので、車が2台必要になるというわけです。
 サマーハウスというのは貸別荘で、夏の時期は1週間を単位にレンタルされています。ロードアイランド州の海岸地帯は昔から有名な夏のリゾート地で、大勢の人がVacationのために訪れます。6月から8月のハイシーズンの家賃は通常の4倍(1か月分の家賃が週家賃になる計算)です。持ち主のシャロンはヨシコさんの友人で2寝室の小さな家を2軒購入していました。1軒は自分用、1軒はレンタル用。家具、食器、洗濯機、乾燥機すべてが完璧に整っています。夏の間は週家賃が1,200ドルですが、9月から5月までを学生などに月1,200ドルで貸します。アパート探しでネックになったのは1年あるいはAcademic year(9月から5月)という契約期間です。サマーハウスの持ち主シャロンは特別に9月から私たちが帰国する3月まで貸してくれると言ってくれましたが、ここも車が2台必要になりそうなのと、5月までには引っ越したいので、あきらめました。
 いい物件がなかなか見つからないとがっかりしていたら、学科秘書のJoanが大学の教授の1人が住んでいた家が空いたと教えてくれました。1寝室の小さな家ですが、広い地下室−半分くらいまで地下に埋まっている−には大きな窓があります。2エーカー(約2,400坪)の庭つきで、芝生の庭はきれいに手入れされています。大学へは歩いて15分、州都プロビデンスやAMTRAKの駅に行くバス停も数分です。Kingstonという小さな大学町の古い建物が並ぶ通りに沿って東に歩いた先のはずれMoores Fieldにあります。道路に面したゲートを入ると、同じような小さな家が6軒、それぞれ別の広い敷地の中に建っています。アメリカンドリームハウスのイメージにはほど遠く小さい家ですが、大きな窓からは緑の芝生と池、その向こうは森以外何も見えない環境です。家賃は水道料込みで925ドル、ケーブルテレビや電話、電気料金が別になります。
 2月に前住者が退去した後、土木技師のオーナーBrentは仕事のあと、週末に家の手入れをしていました。私たちが見に行ったときには、キッチンユニットの入れ替え、壁の塗装が終わり、床カーペットの張り替えを残すだけでした。床は5月1日の私たちの入居時にようやく間に合うという状態でした。契約書に芝生の手入れという条項がありました。“広すぎて無理”と言ったら、“OK”ということで、オーナーが面倒を見てくれることになりました。
   さくらい・のりこ|
大阪市立大学大学院博士課程後期中退、1992年より金城学院大学に勤務。
現在、金城学院大学生活環境学部教授(住生活論、インテリアデザイン史などを担当)。
2008年4月~2009年3月アメリカ合衆国ロードアイランド州立大学客員研究員