ニューイングランドの住まいと暮らし
第1回
アメリカ一小さいロードアイランド州

桜井のり子(金城学院大学生活環境学部教授)
 今回、北米での生活体験を1年間連載させていただくことになりました。よろしくお願いします。
 私の専門分野はもともと家政学の住生活学で、現在は家政学部から改組した生活環境学部環境デザイン学科で住生活とインテリアデザインを中心に教えています。2008年4月から翌年3月まで、大学の海外研修派遣制度によりアメリカ合衆国ロードアイランド州立大学(Universityof Rhode Island,以下URI)での研究の機会が与えられました。アメリカの大学も家政学部はほとんど名称変更や改組で姿を消したのですが、従来の家庭生活や住生活に関する教育がどうなっているかについてということに関心がありました。今回の連載では、アメリカ東部の小さな町で過ごした身近な日常生活の中での体験を中心にご紹介しますが、研修のテーマに関することも少し触れることができればと思っています。
 まず、今回はロードアイランド州と、URIのある町キングストンについてです。  
  
出発・到着 
 2008年3月31日、成田―アトランタ経由でロードアイランド州に到着しました。いつもは名古屋―デトロイト―ロードアイランドが最短で楽なのですが、1年間オープンの航空券が一番安いのはアトランタ経由でした。東海岸にあるロードアイランド州は東部ボストン近くで北の方、アトランタは南部なので大変な遠回りです。
 アトランタでは入国手続きの後、再び持ち物および身体検査などを受けて国内線に乗り換えます。3時間の乗り換え時間でしたが、すべてを終えたら搭乗1時間前になっていました。2001年の同時多発テロ以来、搭乗前の検査に時間がかかります。
 チケットに記されたゲートに行ってみると表示板には遅い時刻の、しかも別方面への便の案内が出ていました。聞いてみるとゲート変更になったとのこと。こういう変更は、アメリカの国内線ではよくあることで何度も慌てた経験があります。2時間余りの飛行で、午後8時30分、ロードアイランド州TFグリーンに到着。自宅を31日朝5時起きで出発して、実に28時間以上かかりました(時差11時間)。 アトランタで50人乗りくらいの小さな航空機のタラップを上るとき、荷物を積みこむ様子がすぐそばに見えていました。「私の荷物は大丈夫かな。重くて置いて行かれるかもしれないな」と思ったのですが、不安が的中しました。私の荷物が入った大きいスーツケースが積み込まれていなかったのです。空港のbaggage claimで落ち着き先の知人宅の住所を伝えると、明日の昼までには届けるといいます。アメリカ国内線の乗り換え時に荷物が来ないということは、これまでにも経験しましたが、不思議なことにいつも翌日にはちゃんと滞在先に届いていました。今回も翌日昼ごろには、届けられました。 
ロードアイランド州と州都プロビデンス   
 ロードアイランド州は、ボストンのあるマサチューセッツ州の南に隣接するアメリカで一番小さな州です。1776年の7月4日、ロードアイランド州を含む東部13州が独立宣言を採択しました。7月4日には全米で独立記念行事が行われますが、ロードアイランドのブリストル(Bristol)という町では軍、警察、消防隊、市民の大きな記念パレードがあります。このパレードは全米で最初に始まり、2008年で223回目、規模も一番大きいというのが人々の誇りです。ちなみにロードアイランド州は5月にいち早く独立を宣言し、“一番”だったということです。その後、イギリスを中心とする宗主国との間で独立戦争を戦いますが、初代大統領に選ばれたジョージ・ワシントンはロードアイランドの中に多くの足跡を残しています。戦争の終盤にはロードアイランドから指揮を執ったということです。
 1620年のメイフラワー号をご存じでしょう。イギリスの宗教的な迫害から逃れてきた人たちがマサチューセッツ・プランテーション(Plantation植民地)を開きます。1636年、信教上の対立からマサチューセッツを追われた人たちが、宗教上の自由を求めてプロビデンス(聖書からとった神の摂理という意味)と名付けたプランテーションを開いたのがロードアイランドです。ロードアイランド州の正式名称は今でも“The State of RhodeIsland and Providence Plantations”といいます。また、ロジャー・ウイリアムスは新たにFirst Baptist Church in Americaという教会を設立しました。アメリカ生まれの教派では最古といわれています。現在の建物は1774年に建てられたものです(写真1)。
 州都プロビデンスの東部丘陵地帯には、アイビーリーグで有名なブラウン大学のキャンパスが広がります(写真2)。緑の間に点在するレンガの建物の多くをブラウン大学やロードアイランド造形大学(Rhode Island School of Design,以下RISD)が所有しています。古い建物を改修しながら活用しているのです。RISDはデザイン教育ではトップランクに入る大学ですが、私の勤務する金城学院大学環境デザイン学科では2004年より学生を海外研修で引率しています。
 プロビデンス北部のポータケットという町はアメリカ産業革命発祥の地であり、工業地域として栄えました。1989年に家族で滞在した際には経済不況の真っただ中で、中心市街地は恐ろしいくらい静かで汚く荒れていました。その後、経済の再生の中で中心部の再開発が進み、最近10年間くらいは見違えるほどきれいになりました。古い建物を活用しながらの再開発が進み、現在は街並みも美しく安全な雰囲気が保たれています。(写真3)
    
 First Baptist Church in America 緑の中に大学のキャンパスが点在する 
     
プロビデンス 中心市街地の様子   「Kingston Village」の名を示す看板   Moore邸
URI周辺  
 URIがある町キングストンは、プロビデンスから車で30分のところで、1700年ごろ、Kingston Villageとして開かれました(写真4)。プロビデンス郊外のTFグリーン空港からここに至る道中、家がほとんど見えない森を通り抜けますが、ボストンからニューヨークに至るPostroadという旧道に沿った町です。大学の周囲の通りには1700年代、1800年代建築の家が並び、当時のたたずまいを残しながら少しずつ手入れされ今も使われています。それぞれの家には元の名前と築年代を書いたプレートがかかっていますが、一番古そうな家は1710年築のMoore邸です(写真5)。私は通りのはずれのMooresfield Rd.の借家に住みましたが、この辺一帯をMooreさんが所有していたのかなと想像していました。Moore邸の向かいには1730年代築の元宿屋だった建物があります。Post Roadを行き交った旅人用のもので、現在は地元の保存協会の管理の下、学生アパートとして使用されています。
 古びた大学町は都会の喧騒とは無関係の独特の雰囲気です。そういえば、私たちが到着する直前の2月に、リチャード・ギア主演・監督の映画「HACHI」−日本の映画「ハチ公物語」のリメイク版−がURIのキャンパスや周辺の町で撮影されたということでした。 
   さくらい・のりこ|
大阪市立大学大学院博士課程後期中退、1992年より金城学院大学に勤務。
現在、金城学院大学生活環境学部教授(住生活論、インテリアデザイン史などを担当)。
2008年4月~2009年3月アメリカ合衆国ロードアイランド州立大学客員研究員