環境演出におけるデザイン作法—第3回

世界初、アカリで演出する
市民参加型の都市景観


伊藤孝紀(名古屋工業大学 大学院 准教授)
LED発祥の地=なごや?!    
 環境負荷の少ない新しい光源として注目されるLED(発光ダイオード)。LED照明器具は、高信頼性、長寿命、低消費電力、低発熱性、耐衝撃性のある次世代産業として期待されている。世界初の高輝度青色発光ダイオード(青色LED)を実現したのは名古屋大学名誉教授の赤崎勇先生であり、それらLEDを製造している豊田合成があることから、名古屋は「LEDの街」と言っても過言ではない。しかし、その事実を知る人は少なく、特許訴訟の問題などが報道された四国の日亜化学工業と勘違いされがちである。正確にいうなれば、基礎技術の大部分(特に単結晶窒化ガリウム(GaN)やp型結晶、n型結晶の作製技術、pn接合のGaN LED)は赤崎勇先生らにより実現されており、その技術を使って製品化したのが日亜化学工業である。まさに、名古屋はLED発祥の地なのだ。     
開府400年事業祭 「アカリナイト」 
 名古屋開府400年という節目の年に、冬の夜を彩るお祭りが誕生した。名古屋の夏祭りは、「名古屋まつり」「ど真ん中祭り」「世界コスプレサミット」など広く知られている。しかし、夜が早いと言われがちな名古屋に、「冬」と「夜」をテーマにした風物詩となる祭りが皆無であった。そこで産まれたのが「NAGOYAアカリナイト」である。2010年年始よりスタートした「名古屋開府400年祭」のフィナーレを飾るイベントとして位置づけられ、名古屋開府400年記念事業実行委員会・NOGOYAアカリナイト実行委員会が主催し、私も実行委員として携わった。名古屋に育まれてきたものづくり精神と、産業の未来を照らす新しい資産であるLED照明を融合し、これまでにないイルミネーションやライトアップなど、幻想的で美しい空間演出や夜の賑わいの創出を図るべく計画された。
 期間は、昨年12月17日(金)から25日(土)にかけて、名古屋テレビ塔を中心に久屋大通公園一帯を舞台に実施。ロゴマーク一つとっても、行政主催イベントには珍しく「多くの市民の思いが集まることで、ひとつのアカリが生まれ、そして輝きを放ち始める瞬間」をコンセプトに、「人の集い」「輝き」をモチーフにデザインされた。さらに、ロゴマークを軸に、WEBやパンフレット、サイン、ディスプレイまでを一貫したデザインで統一するといった行政イベントには類を見ないブランディングがされている。なかでも、「ハートタワー」と「アカリのアカデミー」は、私が企画構想から携わり、照明演出などデザインを手掛けた。 
「ハートタワー(Heart Tower)」  市民の「ありがとう」の想いを表現するテレビ塔 ファッションショーなど市民主体イベントが行われた 
 日本初の電波塔であり、50年以上にわたりテレビの電波を送り続けてきた名古屋テレビ塔が、 今年7月にはその役目を終えようとしている。そのため、電波塔として最後のクリスマスを迎えるテレビ塔に、メールやツイッターから「ありがとう」のメッセージを投稿するとテレビ塔がその気持ちを特別なライトアップで伝えてくれるという仕掛け「Heart Tower」を計画した。2010年12月に入ると、テレビ塔は今までの感謝の気持ちを特別なライトアップで表現し始める。そしてアカリナイトの会期中は、市民から「日常のありがとう」のメッセージをメールやツイッターで募集し、ライトアップとWEB上で発信。テレビ塔が色付く瞬間、それは、誰かが誰かに「ありがとう」を伝えようとしている合図となる。自らがメッセージを送って、テレビ塔の色を変えてみたいという欲求もわくだろう。また、他人のメッセージを読むことで感動し、自分の両親、兄弟、親類、友人、そして妻や恋人に「ありがとう」を伝えたくなるだろう。
 私の想いとしては、今まで市民へ電波を送る側だったテレビ塔が、市民の気持ちや思いを発信するタワーへと新しい役割を担うきっかけをつくりたかった。観るといった一方向的なライティングではなく、多くの市民が関わりやすい仕掛けを施すことで、「市民参加型」という新しいライティングとテレビ塔のあり方を提示できたのではないか。
 ライティングのパターンは、会期前がテレビ塔からのメッセージとして、ピンクのライトを5回点滅させ「あ・り・が・と・う」を表現。17日のオープニングセレモニーでは、フルカラーLEDの現技術の最大限を引き出す演出に挑戦。メッセージ待機時は「メッセージ受信の期待感を表す」イエロー→オレンジ→グリーンに変化させ、メッセージを受信すると、メールからの場合はピンクに、ツイッターからの場合はブルーに発光させた。この技術を支えたのが、フルカラーを実現可能にしたパナソニック電工のLED投光器である。LEDカラー演出用の照明器具28台と新開発のLED白色投光器28台が採用され、ライティングに秘められた物語に合わせたシミュレーションやソフト作成に協力を得て実現している。
 企画力と技術力が融合した演出によって、1万通を超える「ありがとう」のメッセージが冬の街に連鎖し、テレビ塔は「テレビの電波をおくる塔」から、市民のココロを発信する「ハートタワー」へと姿を変えたのである。 
3万球のLED で構成したシャンデリア 
「アカリのアカデミー」
 「アカリのアカデミー」では、LEDを用いた体験・学習・発表型のコンテンツとして老若男女が参加できLEDを身近に感じられる場づくりを意図した。また、テレビ塔・タワースクエアには、3万球のLED(青色、白色:1万5千球ずつ)を用いてシャンデリアをモチーフに光の演出を行った。LEDは豊田合成から提供いただいたが、それを演出へと展開する予算がない…。そのため帯状のLEDの長さを変え、配置する密度を調整し、青色と白色を相互に組み合わせ、つり下げる作業だけで実現できるよう工夫した。また、LEDの光り方は、イベント・コンテンツに呼応して変化するようプログラムした。
 小学生を対象にした「大ナゴヤ大学」の授業としてLEDを使ってクリスマスランプを作るLED工作教室。親子での参加はLEDの技術や構造を知るだけでなく、親子の触れ合いの場となった。
 24日イブの夜は、名古屋圏で活躍するクリエイターたちが発信し、光の演出と音楽、映像が一体となった空間を体感できる「LEDアカリフェス」。ヒップホップやポップス、ロック、ヒーリングサウンドから現代音楽まで幅広い音楽ジャンルと短編映画を組み合わせ、通常専用施設でしか鑑賞できない音楽や映画作品を公的場所、それも市民が親しみやすい屋外空間で実現させたことに意義がある。
 さらに25日クリスマスの夜には、芸術大学の学生が制作したLEDアクセサリーを用いて、国際協力・環境活動をファッションとつないで活躍している原田さとみさんプロデュースの「フェアトレード・ファッション」を開催。続いて「ペチャクチャナイト」では、「COP10」や「あいちトリエンナーレ」など2010年を代表する活動をダイジェストに紹介した。テレビ塔に付けられたLEDシャンデリアの下で、市民発信・市民参加型のイベントが行われたのである。 
 
 テレビ塔の保存と新しい姿の提案、名古屋発祥のLED産業の育成、さらには名古屋のまちづくりへとつながる市民参加の仕掛けこそが環境演出であり、これからの建築家が取り組むべき新たな領域ではないか。   LED の長さと密度の調整によって安価に実現
いとう・たかのり|
1974年 三重県生まれ。
1994年 TYPE A/B設立。名城大学建築学科卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程満了。
2007年より名古屋工業大学大学院准教授・博士(芸術工学)。
TYPE A/B では、建築、インテリア、家具のデザインや、市場分析からコンセプトを創造しデザインを活かしたブランド戦略を実践。研究室では、行政・企業・市民を巻き込んだまちづくりに従事し、社会・世界に向け活発に活動中。
主な受賞歴:2004年 JCD デザイン賞 奨励賞
        2005年 Residential Lighting Awards 審査員特別賞
        2006年 SDAデザイン賞地区デザイン賞
        2007年 JCD デザイン賞 銀賞
        2008年 日本建築学会東海賞
        2009年 中部建築賞