環境演出におけるデザイン作法—第2回

路面駐車場から広がる環境演出

伊藤孝紀(名古屋工業大学 大学院 准教授)
環境都市なごや?!
 名古屋市では、2010年にCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催され、環境都市としての取り組みが世界から注目されている。他都市に先駆け、建物を新築する際に基準となる緑化を義務づける「地域緑化制度」や、緑化を促進するための助成金「NICE GREEN なごや」といった施策が実施されている。
 近年、都市部における環境問題として、ヒートアイランドや、風力や太陽光などを活用したクリーン電力などエネルギー問題、乱立する屋外広告物による景観問題などが挙げられる。例えば、ヒートアイランドの要因となる路面駐車場や空き地を含む空地の割合は、名古屋都心部(名古屋駅から栄地区)で約8%(2004年度)であり、現在ではさらに増加傾向にある。経済低迷から開発計画が中止され、その幾つかは路面駐車場として活用される。過密化した都心部において路面駐車場が増加することは、風通し良く、日照条件を良好にし、街路を閉鎖感から開放する効果に加え、災害時の一時避難場所として期待できる。問題は路面駐車場の存在ではなく、乱立する看板やアスファルトの床面など、その設え方にあるのではないか。
 一方、エネルギー問題をみると、電気自動車普及のため充電設備を整備する動きが広がっている。無味乾燥としたガソリンスタンドが都市内に拡大したように、電気自動車の充電ステーションが同じような設えでよいのだろうか?
 本研究室では、「gre・eco(グリコ)」と称した都市における環境問題の改善策として、路面駐車場に着目し、太陽発電や電気自動車の充電設備、自由度の高い緑化システムを設置することで環境共生できる持続可能なモデルを提案している。「gre・eco」とはgreen(グリーン)とeco(エコ)からなる造語であり、産学官が連携した実証実験など幾つかの事例を実現している。
緑化路面駐車場「gre・eco」の事例 
 緑化路面駐車場の事例は、用途、規模、立地条件の異なる名古屋圏6か所(名古屋市5か所・岐阜市1か所)において施工されている。一番の特徴は、既設アスファルトの上面に床面緑化しているところであり、既設アスファルトが産業廃棄物となることはない。緑化手法では、各敷地の特性に合わせた植栽の種類を選定し、地表面や壁面の緑化計画が行われている。建物の屋上・壁面緑化に比較すると、路面駐車場など空地の緑化は、利用者や歩行者が身近に体感・体験でき視認性が高く、施工費用も安価である。また、緑化だけでなく子どもたちの環境学習や災害避難の場としての計画も行っている。

1.個人住宅
 右の写真は、岐阜に位置する個人住宅の駐車場である。限られた土地に住宅が計画され、その余白地にカーポートを設置、さらに残された部分がわずかな庭となった光景をよく見る。駐車部の緑化は、庭と駐車場を融合させることを可能とし、バーベキューなど家族の営みを助長する。屋根部はアルミフレームをネットで覆うことで、植物が成長しつたい、風と雨を適量に調整する。床・壁面緑化には、花が咲き、実がなる植物を設置することで、季節を感じ景観を彩り、昆虫や野鳥が生息する場として機能する。

2. 店舗(マツダレンタカー)
 マツダレンタカーの駐車場は、名古屋市錦2丁目のオフィスビルが立ち並ぶ一角に位置し、多くの人が行き交う道路に隣接する視認性の高い場である。この地域は、特にコインパーキングや未利用地が増加しており、地区全体の約12%を占める。店舗の看板は、従来型より7割縮小し、その代替として、店舗壁面にオレンジ色の花を栽培しサインとして計画した。店舗や企業のブランドカラーは、看板の大きさを競うのではなく、花や実など植物の彩りを競う時代へと変化するだろう。また、屋根部には太陽光発電パネルを設置することで、自動灌水システムとLED照明に必要な電力は自家発電で賄われている。植物をサイン計画に取り入れることで、都市景観の改善、企業イメージの向上に大きな影響を与えると考えられる。

3. 名古屋市庁舎
 名古屋市西庁舎の駐車場は、大津通り沿いに位置しており、主に来客用として利用されている。駐車可能台数は7台で、向かいの歩道にはバス停があり、歩道の歩行者からもよく見える場所である。名古屋市が制定した緑化地域制度適用時における駐車場緑化の有用性の検証と、既存路面駐車場における容易な緑化の検討を目的として竣工され、名古屋建設業協会と名古屋市、名古屋工業大学の産官学連携による実証実験として実現した。7台の駐車スペースには、複数の企業による特徴の異なる7種類の工法を用い、工法ごとの短所長所を明らかにしている。

4.ウェスティンナゴヤキャッスル 
 このホテルの駐車場は、堀川沿いに位置する南北に長い敷地である。歩道側に視界が開放されているため歩行者の視線に入りやすく、駐車可能台数の48台分を床面緑化した。また、歩道側には高木を植え、地域の住民や子どもたちが集う環境学習の場や、太陽光発電パネルを用いた電気自動車の充電設備とLED照明のサインを融合した壁面緑化を設置した。さらに、災害時対応の自動販売機を設置することで一時避難場所としての役割も担っている。   
   
   庭と住宅が一体とした住宅型プロトタイプ 企業や店舗のサインを植栽で演出 
   
  名古屋市西庁舎では7種類の緑化工法を比較  地域のコミュニティスペースや環境学習の場を創出
 
 壁面緑化、太陽光パネル、電気自動車充電器、LED 照明を複合化  
路面駐車場からみる都市デザイン
 本研究室では、各事例を通して利用者の知覚温度や行動調査や緑化駐車場の印象調査、維持管理に必要な灌水量調査、地表面・壁面緑化の表面温度調査、実施主体へのヒアリング調査などを行い、今後の普及に向けた知見を収集している。
 名古屋市内に緑化路面駐車場(gre・co)が増加拡大していくことで、緑被率の向上だけでなく「風の道」を創出することを目指している。名古屋市では、名古屋港から吹き込む風の通り道として、都心部を流れる「堀川」を活用する計画が策定されている(名古屋工業大学 堀越研究室の発案)。「風の道」をつくることにより、都心部で熱くなった大気を冷やすことができ、ヒートアイランドの抑制につながる。現在、堀川沿岸の土地利用をみると2割を超える企業の路面駐車場があり、堀川の景観を損ねる要因のひとつでもある。堀川沿いに点在する路面駐車場を緑化することで、川と街をつなぐ緑の帯ができ、帯は面となり「風の道」を助長することで、都市環境を多面的に改善していく仕掛けとなると考えられる。
 名古屋圏は自動車産業と共に発展をしてきた街であり、世界から見ると米国・デトロイト市、イタリア・トリノ市と同様に「自動車の街」と認知されている。自動車が街のアイデンティティであるため、自動車を排除するような環境問題の改善ではなく、自動車と共存する改善の方策が必要であるだろう。都心部における隙間のような小さな空地の演出が集積することで、都市環境がデザインされていくことを展望としたい。
いとう・たかのり|
1974年 三重県生まれ。
1994年 TYPE A/B設立。名城大学建築学科卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程満了。
2007年より名古屋工業大学大学院准教授・博士(芸術工学)。
TYPE A/B では、建築、インテリア、家具のデザインや、市場分析からコンセプトを創造しデザインを活かしたブランド戦略を実践。研究室では、行政・企業・市民を巻き込んだまちづくりに従事し、社会・世界に向け活発に活動中。
主な受賞歴:2004年 JCD デザイン賞 奨励賞
        2005年 Residential Lighting Awards 審査員特別賞
        2006年 SDAデザイン賞地区デザイン賞
        2007年 JCD デザイン賞 銀賞
        2008年 日本建築学会東海賞
        2009年 中部建築賞