保存情報 第108回
登録有形文化財 旧津島信用金庫本店 山田正博/建築計画工房
外観  旧営業室には祭りのとき
の提灯が展示されている
旧金庫扉
■紹介者コメント
 国の重要無形民俗文化財に指定され、日本三大川まつりの一つ、津島天王祭で有名な津島神社は「西の八坂神社 東の津島神社」といわれ、古くは牛頭(ごず)天王社とも呼ばれていた。全国の天王社の総本社でもある。楼門は豊臣秀吉の寄進で、本殿と共に桃山式建築の重要文化財となっている。
 東鳥居をくぐると樹齢400年という銀杏の大樹が目に入る。東へ進み、本町筋を北へ向かうと鉄筋コンクリート造2階建ての旧津島信用金庫本店はあった。昭和4(1929)年に銀行建築として新築された。津島銀行・名古屋銀行・東海銀行を経て、津島信用金庫本店として利用された。
 柱・梁・壁・床・屋根をすべて鉄筋コンクリート造としている。外壁は腰まわりに花崗岩、上部を人造石洗い出しで仕上げている。当時、地方都市での銀行建築に多い「復興式」と呼ばれるルネッサンス様式を基調としている。
 平成18(2006)年登録有形文化財となり、NPO法人まちづくり津島が、津島市から管理を受託し、平成21(2009)年4月に津島市観光交流センター愛称“まつりの館 津島屋”としてオープンした。海部津島の歴史・観光・文化などの地域情報の発信拠点として、催事開催により交流機能の充実を目指して運営されている。
 吹抜を持ったかつての営業室には、天王祭りの夜、巻きわら船に灯される半円・山型の提灯が実物大で展示されている。ほかに季節ごとの展示をしている。裏手に土蔵があり、明治26(1893)年開業した津島銀行の付属家屋か、それ以前の商家の付属家屋か不明だが、改装され、織田信長の幼名吉法師から名付けた「吉法庵」という茶席となっている。
 周辺は、呉服屋、糀(こうじ)屋などの町屋建築が居並び、本町筋を南へ行けば津島の歴史の古さを伝える「道標」がある。風情が感じられ、素朴な町並みに溶け込んでいる。


所在地:津島市本町1-52-1 名鉄津島駅より徒歩10分
登録番号:23-0213 電話:0567-25-2701        
開館時間:10:00 ~17:00 月曜休館           
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 飯盛山 香積寺(はんせいざん こうじゃくじ) 鈴木祥司/アトリエ祥建築設計
本堂正面 森林に囲まれた座禅堂 鐘楼。回廊の一部に組
み込まれた珍しい形式
■発掘者コメント
 豊田市足助地域の豪族足助氏(うじ)の居城跡にその菩提寺として開山された曹洞宗の禅寺である。鎌倉時代~南北朝時代の足助地域には7つの山城があり、この飯盛山(いいもりやま)城を本城とし真弓山城(足助城)、大観音城、城山城、成瀬城、黍生(きびゅう)城、臼木ヶ峰城を配した。
 この飯盛山には歴代住職の墓や十六羅漢の石仏、後の足助城主鈴木氏(うじ)五代の墓、装束を埋めた「装束塚」、仏教経典仏具を埋めた「経塚」、山城を物語る土塁跡があり、山頂を主郭とした曲輪(くるわ)が形成されている。南の巴川、北の真弓川に囲まれた天然の要害で、戦のときは隣接した真弓山足助城を主城とした。足助氏7代当主足助次郎重範(しげのり)公は弓の名手として名高く後醍醐天皇に仕えた。元弘の乱でのその勇敢な戦いぶりは「太平記」にも登場し、一族の歴史はまさに勤皇派であった。
 山門の両脇にある土塁や本堂手前の階段両脇の石積みを見ると、まさに城壁の形をしている。
 1日中森の木陰に囲まれたお寺は夏でもひんやりとさわやかで静けさに包まれている。伽藍配置は本堂・庫裏・鐘楼・座禅堂が回遊できる形となっており、その奥に修行僧の宿坊が配置され、当時の禅寺としての面影が彷彿と浮かんでくる。
 本堂は230年ほど前に建て直されたが、その建築様式は、屋根他一部を除いては和様・唐様・天竺様でもなく、ごく一般的な民家風架構で時代の変遷がうかがえ、むしろそれが山寺として愛らしくも感じる。しかし屋根の形状は美しいデザインでおそらく建立初期の形が保たれているのではないか。
 このお寺からは著名な住職が輩出され、寛永年間の11世住職、参栄本秀が般若心経を1巻詠むごとにカエデや杉を1本ずつ巴川沿いの参道に植えたと伝えられ、もみじの開祖と言われている。また、25世住職・風外本高禅師は書画にたけており、多くの作品を残した。特にトラの絵は有名で軽妙洒落、ユーモア溢れている。秋のもみじ祭りの期間中には所蔵されている書画を拝観できる。
 また飯盛山を含め、南の巴川に囲まれたこのエリア「香嵐渓」はもみじの名所となっている。

建設年代:応永34年(1427) 曹洞宗の禅寺として、
関白二条良基、成瀬三吉丸基久・基直(犬山城成瀬家
の先祖)他によって開基、白峰祥瑞禅師により開山
建替え:本堂 およそ230年前
構造:木造平屋建て(鐘楼のみ2階建て)
公開:参拝終日
アクセス:名鉄三河線豊田市駅より名鉄バス矢並線
「香嵐渓」下車徒歩12分 名鉄東岡崎駅より名鉄バス
「香嵐渓」下車徒歩12分