JIA愛知建築セミナー「明日をつくる建築家のために」
シリーズ6「地域から世界へ」第5回

道川省三氏、塚本由晴氏を迎えて
( 鈴木祥司/アトリエ祥 建築設計 )
 JIA愛知建築セミナー・シリーズ6も4月10日で5回目を迎え、熱のこもった講演が行われました。
 陶芸家の道川省三さんと建築家の塚本由晴さんの異色な組み合わせでしたが、講演が始まると意外な共感しあう場面が発生し、盛り上がりました。
「土のエネルギー」
 飾り気のない気さくな話しぶりの道川氏の講演は、陶芸家を歩み始めた若き頃の修行時代のお話から始まりました。そしてインターネットを通じて世界各国からオファーが入りはじめ、海外での活動が展開していき、イギリス、フランス、ベルギー、チェコスロバキア、ルーマニア、アメリカ、中国など世界各地で作品展やワークショップを開催、ご活躍していく話へと進みました。海外では子供の頃から芸術、文化に対する情操教育がしっかりと行われており、芸術に対する情熱、理解が大変エネルギッシュであり、ストレートにコミュニケーションが行われている。日本の中では芸術に対する姿勢がなぜか門戸狭く、構築されている価値観が違い過ぎ、あまり受け入れられない状況がある。自然物になるべく無駄な手を加えず、いかに素材の特質を引き出し、その時代を感じ取って表現するかという制作作業。
 ご活躍の幅の広さとそのエネルギーは私たちにとって刺激的で学ぶことがたくさんあり、しかもおごりのない、人なつっこいお人柄が出て、楽しく興味引かれる講演となりました。
 つくり出す作品は、土から生まれ出るエネルギーそのものといった感があります。日本の伝統的陶芸領域を超えており、それが世界の人から認められるファクターだと思います。
 日本の陶芸は世界でもレベルが高く、伝統技術の極め方は他分野の芸術と比べてもすばらしいものがありますが、それゆえに、そこにある技術と芸術性に固執してしまっているのが今の日本の陶芸界のような気がします。道川さんがその固執感なく、純粋に土の性質、エネルギーをいろいろな技術、技法を用いてこだわりなく作陶してゆく姿は、心地良ささえ感じとれます。
道川省三氏 塚本由晴氏 対談する講師のお2人
「ビヘイビオロロジー=振る舞い」
 次に塚本氏の講演は、建築の社会性に対する一貫した考え方を紐解く話が展開しました。
 「Behavior-ology」=「振る舞い」と訳し、人の振る舞い・家族の振る舞いがあるのと同様に建築にも社会環境の中での振る舞いがあると説き、ご自身の作品、ワークショップを通してその論理展開が始まりました。
 屋台の場の垣根の低さが人の繋がりを生むこと、新潟豪雪地帯の家屋形態の秩序性、東京世田谷区奥沢地域の住戸の応答関係=「こだま」と一様な世代交代による敷地の細分化、住宅重層化の話など、さまざまな尺度で「振る舞い」の概念を紐解き、分かりやすく解説が進んでいきました。
 また環境とその敷地条件に伴い、クライアントの要望を上手に抽出した手法で論理的につくられた幾つかの作品紹介がなされました。生島文庫、ポニー・ガーデン、スウェーハウスなどは、小住宅がゆえに親しみやすく明快なコンセプトが伝わってきました。
 風土と文化のもとに建築は生まれ、消滅し輪廻してゆくものですが、彼の考えの前提にも云わずもがなでそれが含まれており、社会環境の中で光、風、音の振る舞いがあると説いています。人、家族、建築の居場所とその距離感をとらえ社会性が建築を生み出し、建築が社会性をつくるのに大きく関わってくるのだと言っていると思います。
 やはり気取らない会話と風ふうてい体は、道川氏をはじめ学生さんや若い受講者の共感を得ました。
 講演後の懇親会、二次会まで講演者2人は話が合い、盛り上がっていました。
会場の様子
お2人の分かりやすいご講演、ありがとうございました。今後のご健闘と活躍を願っております。
参加者の声
●道川先生は、粘土の意志、ろくろの意志が形をつくり、自身は自然と芸術の媒介者であると言う。そしてつくり出された作品はほころびをそのままに、素直な表現をしているように感じた。若い時代の大変な苦労の上に今日があるという。一方で「日本で求められる使いやすい作品を目指したらつまらないものしかできない」と言い切る姿勢は、まねしようとして簡単にできるものではないが、ぜひ心に留めておきたいと思った。使いやすい建築がつまらないとは思わないが、使いやすさを満たしただけの建築ではなく、それに代わる魅力を備えた建築を目指したいと、そんな気持ちを後押ししてくださるような講演であった。
 僕は学部の4年生の時に塚本先生の演習を選択した。当時は環境ユニットという考えから建築と周辺環境が一体となった状況について教えていただいた。Behavior-ologyという考え方はその延長線上にあって、先生がずっと考え続けていることなのだろうと思う。建築を考えるときに、建築そのものにのみ視点が行き、敷地の中だけで考えが滞ってしまう。しかし先生の建築の視線は常に敷地の外、周辺環境から建築のあるべき姿をつくり出している。そして建築のボリュームだけではなく内部環境、プランに至るまで一貫してそうした姿勢を貫いている。ただ先生は研究者というふうでもなく、服装もそうなのだが肩肘を張らない素直な雰囲気がとても魅力的であり、建築もコンセプト一貫で堅苦しくできているのではなく、その場の「振る舞い」に素直に従い、風がすっと通り抜けてゆくようなすがすがしい感じがする。
 僕は先生の思想や建築がとても好きで、今度できるモリコロパークの施設はとても楽しみにしている。(大鹿智哉/藤川原設計)
●今回の建築セミナーで、道川先生からは世界で通用する基準や価値観、塚本先生からは現代建築の振る舞い方を学びました。
 道川先生の講演では、世界と比べ日本の価値観は遅れているのではないかと感じました。それは学校で芸術に対する力の入れ方が違うからです。世界はどんどん世界の芸術(最先端なものなど)を学ばせようとしていますが、日本は特にそのようなことを行っているとは感じません。むしろ自国のものを学ばせようとしようとしているように感じます。それでは将来廃れてしまうのではないか。私たちはもっと世界を見るべきだと感じました。
 塚本先生がおっしゃっていた「建築のビヘイビオロロジー」で特に印象を受けたのが「SUBDIVURBAN」です。建築の第1~第3世代までのそれぞれの世代で建築の違いがあり、間口の使い方も世代が上がるにつれて小さく、使い方も良くなくなってきている。これを解決するための新たな第4世代の振る舞い方を考えないといけないと感じました。塚本先生がおっしゃっていたように建物をもっと寛容にしないといけないし、また別の方法を私たちも考えないといけないと感じました。(都築和義/豊橋技術科学大学)