木造建築のこれから 3

火に強い木造建築

腰原幹雄(東京大学生産技術研究所・准教授)
 新たな木造建築が建てられるようになった要因のひとつに耐火技術の向上が挙げられる。木造でも耐火建築物が可能になったため、「どこにでも、どんな建物でも」木造建築で建設することが可能になったのである。燃える構造材料を用いた火に強い木造建築の技術にはさまざまな考え方が用いられている。
燃えしろ設計(準耐火構造)
 大断面集成材による大空間を支える防火技術として「燃えしろ設計」がある。
 告示(平成12年告建設省告示1358号)で定められた準耐火構造の構造方法として定められており、木材の断面がある程度大きいとゆっくりと燃えるという特性を利用して、燃え方を制御することで火災に対する安全性を確保しようというものである。木材の着火温度は260℃程度であり、通常、この温度に達すると炎を出して燃えて炭になり炭化層を形成する。この炭化層は断熱材のような性質を持つため、木材内部への熱の侵入を軽減する。自分で耐火被覆を形成していくようなものである。しかし、この炭化層が木材から脱落してしまうと、普通の木の表面と変わらなくなるため、燃える速度も戻ってしまう。木が燃える速度は、毎分0.6〜0.7mm程度であり、断面が大きい木材は速度が遅く、板材などでは速度が速くなる。つまり、60分間で燃える木の量をあらかじめ把握しておけば、火災後の残存断面を用いて建物の安全性を確保すればよいということになる。
 しかし、もうひとつ気をつけなければならないのは、木材の温度上昇によるヤング率変化である。燃えないといっても内部の木材の温度が200℃近くまで上昇すれば、木材の性質は変化する。高温時には、木材のヤング係数は低下する傾向にあり、変形や座屈耐力などヤング係数に影響される数値については、火災後だけでなく、火災中の状況も認識しておく必要がある。
 燃えしろ設計は、木材の燃える速度で制御されるため木材の品質に対して制限がとられており、JAS(日本農林規格)適合の大断面集成材、製材など、あるいは含水率が15%または20%のJAS適合製材で計画可能となる。また要求される準耐火時間に合わせて表1のように、燃えしろの寸法が定められており、火災後に、もとの断面からこの寸法だけ燃えた残りの断面で、長期荷重(鉛直荷重、積載荷重、積雪荷重)を支持できることが条件となる。ただし、火災後に崩壊を防げればよいので、短期の許容応力度を超えないことを確認すればよい。燃えしろ設計を行うことで、木材を現しにした部材でも準耐火建築が実現可能になっている。最近では、厚板の床板や軒裏、野地板現し屋根など仕様によっては、面材でも木材を現しにできる準耐火構造の仕様も認定されている。
火災前
火災後
          燃えしろの値(mm)
準耐火構造
45 分 60 分
構造用集成材 35 45
構造用LVL 35 45
構造用製材 45 60
燃えしろ設計 表1
耐火構造
 準耐火建築物では、火災が終了するまで建物が崩壊せずに自立し、延焼を防止できればよいのに対して、耐火建築物では、火災終了後に消防活動によらないでも建物が倒壊しないで自立し続けることが必要とされる。つまり火災終了後に自然に鎮火する必要があるのである。燃える構造材料である木材を用いる耐火建築物で大きな障害になっていたのが、この自然鎮火である。「燃えしろ設計」では、火災終了後に燃え続けていてもかまわないため、木材のみでも実現可能であったが、鎮火させるために「燃え止まり」という新しい概念を用いる必要がある。
 現在、耐火部材として開発されているものは大きく3つの種類がある。
 1.一般被覆型耐火部材
 2.燃えしろ被覆型耐火部材
 3.鉄骨内蔵型耐火部材
 一般被覆型は、せっこうボードなど不燃材料で耐火被覆し、木材が燃焼・炭化しないようにしたもので、すでに枠組壁工法や軸組工法住宅のなかで実現している。木材を被覆してしまうため、構造材である木材を現しにすることができない。鉄骨内蔵型耐火部材では、火災中には外周の木材が燃えしろとして燃焼するが、火災終了後には内部の鉄骨の影響で燃焼が停止する仕組みで、金沢エムビルや丸美産業本社ビルで採用され、5階建ての木質複合構造ビルが実現している。鉄骨が内蔵されているが、外周の木材を現しにすることができる。外周の木材は、火災後以外には、鉛直荷重、水平力に対して抵抗する構造材で単なる耐火被覆材とは異なる。燃えしろ被覆型耐火部材が一番開発が遅れているが、いくつかの認定部材が登場しつつある。燃えしろ設計と同様に燃える速度を制御する技術と、燃え止まり層を内部に形成することにより、火災終了時に自鎮する仕組になっている。
 こうした耐火部材を組み合わせれば、ルートA(仕様規定)の耐火建築物として実現可能になる。ルートAの耐火建築物で耐火構造とする必要な主要構造部は、壁、床、屋根、柱、壁、梁、階段であり、すべての部材が耐火部材である必要がある。
 集成材建築では、壁や床、屋根といった面的な部位の耐火部材開発が遅れており、金沢エムビルでは、床、屋根は鉄筋コンクリート造、階段は鉄骨造、壁は鉄骨造などで用いられるボードを用いて実現している。壁、床(天井)は、内部空間で大きな比重を占める仕上げ部位であり、木材現しの耐火部材の開発が望まれる。

RC 大架構+木造

RC 造+木造
木質耐火部材(左から、一般被覆型、燃えしろ被覆型、鉄骨内蔵型) 混構造による耐火安全性確保
耐火性能検証法
 耐火性能検証法を用いて火災安全性を検証する場合には、必ずしも耐火部材を用いる必要がない。性能設計のルートBでは、想定される火災に対して木造の主要構造部が木材の着火温度(260℃)まで上昇しない、すなわち木材が着火しないことを確認するもので、炎の届きにくい天井の高い空間に適用しやすい。さらに、詳細なルートC では、ルートB 同様に主要構造部材が着火温度に達しない、あるいは、着火しても火災終了後に燃焼が停止する(燃え止まる)ことを確認し、燃え残った部材で安全性を確保することが要求される。
 今後は、耐火部材の開発と耐火性能検証法を組み合わせることにより新たな耐火木造建築が実現可能となるだろう。
内装制限
 木部材を現しで使うためには、主要構造部材としてだけでなく、内装材としての要求性能も満足しなければならない。内装材としては、可燃物の多い用途や、フラッシュオーバーを早める要素をもつ空間に対して壁、天井の内装の仕様に制限があり、普通の木材を使用できない場合がある。防火材料として、不燃材料、準不燃材料、難燃材料として大臣認定を取得した木質系の内装材を用いれば容易であるが、その他にもいくつかの緩和規定がある。天井に準不燃材を用いることにより、板厚25mm以上の木材の壁とすることができたり、スプリンクラー設備などの消火設備と排煙設備の設置で内装制限を除外することもできる。さらに、避難安全検証法で避難行動などを予測し、利用者が安全に避難できることを確認できれば木材を使用することも可能になる。
火災に安全な木質複合構造建築
 木材を使った火災に安全な建物のためにさまざまな部材開発、解析技術が向上しているが、現状のルールは燃えにくいコンクリート造や鉄骨造を前提にできたものであり、今後、燃える部材を用いた火災に安全な建物のための枠組づくりも必要である。前回、構造形式として提案したRC大架構+木造や混構造では、RC造部分が防火区画や避難階、避難スペースとなり、利用者が安全に避難できる可能性がある。既存の法律の本来の目的に戻り、性能を満足させる新しい技術の開発が望まれる。
<参考文献>
・安井昇ほか:『国産スギ材を用いた木造耐火建築物の開発』、GBRC、日本建築総合試験所2006.04
・『木造建築のすすめ』、木を活かす建築推進協議会、2009
こしはら・みきお|
1968 年千葉県生まれ、1994 年東京大学大学院修士課程修了、1994 〜 2000年構造設計集団< SDG>、2001年東京大学大学院博士課程修了。
東京大学大学院助手を経て2005年より現職。
伝統木造建築、近代木造建築、木造住宅の耐震性能評価、耐震補強から木造住宅、木質構造建築の構造設計まで、木材を用いた建築の可能性を構造の視点から研究。
2008 年よりTimberize Tokyo のメンバーとして活動、都市の木造建築の可能性を模索中。