JIA愛知建築セミナー「明日をつくる建築家のために」
シリーズ6「地域から世界へ」第1回
翔んだカップルと兄貴ヨロシク!
TNA /武井誠氏+ 鍋島千恵氏・前田紀貞氏

( 吉元 学/ワーク◦キューブ)
 JIA愛知建築セミナーはシリーズ6を迎えました。「地域から世界へ」と題して2月13日に第1回目の講義が東海工業専門学校(名古屋市中区)にて開催されました。毎回ご協力頂いている学校関係者の方々に感謝致します。
 今回のシリーズは様々な分野から講師の方々をお招きしています。道は違えどもその道を極めている方(極道の方)のお話には得るものが多いと感じます。何を考えて何に向かっているのか知りたいです。若手建築家ばかりのレクチャーとはJIA愛知建築セミナーはひと味ちがいます。また、参加者もベテラン(名物男横山さん)から学生までさまざまな年代の60名を超える参加がありました。さまざまな年代の人々が交流できる場は建築を考える上で大切ではないでしょうか。今後もJIA愛知建築セミナーをごひいき下さい。
「近作について」
 今回のトップバッターは話題作を次々に発表しているTNAのお二人です。最近JIA新人賞を受賞されたばかりでレアな話題に期待が高まります。
 鍋島さんはおっとりとしていて、まるで佐賀鍋島藩のお姫様のようなお方。一方、武井さんは姫をお守りする若武者「武井某」という感じでしょうか。お二人の語り口は共に落着きがあり、大胆な作風の建築家とは思えません。若くして成功する建築家はデザイン力はもとより人間力の方も優れているようです。お話は扇子や重箱、アイフォンの話から始まりました。これらのものは「関係性が凝縮」されていて、空間もこうあるべきだとおっしゃっていました。「モザイクの家」「廊の家」「輪の家」「カタガラスの家(JIA新人賞受賞作品)」「壇の家」「シロガネの家」「方の家」などの実作のスライドを見せて頂きました。どの作品も法規や敷地環境、構造や機能が表裏一体の関係になっていて、その単純な形態の作品は美しい緊張感を持ち、高度な数学の方程式を見ているようです。お二人とも手塚建築研究所の出身ですが、コンセプトの明快さでは師匠夫婦を超えたのではないでしょうか。しかし、お二人を巣立たせた手塚夫妻も偉大です。お若いだけに、これからますますの活躍が期待されます。
TNA /武井誠氏と鍋島千恵氏 前田紀貞氏 会場の様子
「建築道・けんちくどう」
 続いては「建築界の兄貴」前田紀貞さんの登場です。50歳には見えない精悍な体に端正なマスク、松岡修造タイプの体育会系の匂いを感じます。また、丸刈りのヘアースタイルは鎌倉幕府と戦う日蓮上人といった感じでしょうか。「建築と同じくらい若い人を育てていきたい」の言葉どおり事務所、大学、建築塾や建築サロン「典座」というバーまでさまざまな活動をなさっています。
 まず最初に建築家にとって大切な3つのことを語られました。1、私を照らす。2、私を超える。3、空(空間)です。「私を照らす」とは灯台にたとえて、灯台(私)は世界(知識やテクニック)を照らします。これではいい建築はできない。灯台(私)の足元をもっと見つめるべきである。「私を知らなければ建築はできない」と語られます。
 人間は半年から1年で細胞がすべて交代することから、C、H、N、Oなどの分子がその都度住処にする場所ととらえることができる。また、世界の事象は複雑に関連しているという「相」の思想から建築を発想、思考している。そのため、建築以外のバイクやアメ車や波乗りやロック、演劇、映画、哲学などさまざまなこと(相)に興味を持ち「遠い所の相を引っ張ってきて建築をつくる」とおっしゃっていました。
 「いい意味で強制する人が少ないのが寂しい、ただしケツを最後に持つ人」と、前田さんが作成した若者心得を教えていただきました。これは20年ぐらい修正しながら続いているそうです。「己の自然(じねん)に委ねる」。偶然(自然)を味方につけるシステム(ルール)を持つため、私を超える必要がある。これは私を「無」くすことではなく、私を「空」ずることである。何だか仏教の説法のようになってきました。
 後半は「セルロイドジャム」「プラスチックムーン」「ピクニック」「ボトムアップ」「アルゴリズム」などの作品をご紹介いただきました。これらは「空の建築」であり、空気の質を設計されたそうです。前田さんの建築に対する心得や思考は私の世代にはぴったり来るのですが、それを真剣に実践しておられる姿に感動しました。スタッフの方を怒鳴りつけている愛情一杯の前田さんの青筋が目に浮かびます。
 最後に「人の居場所をつくっていきたい」とおっしゃっていましたが、自分の居場所を懸命につくられているように感じました。
参加者の声
●TNAさんの作品の中で「カタガラスの家」が印象に残っています。家の中心にある階段によって室内の空間が違って見えて、写真が変わるたびにワクワクしました。シンプルながら凝縮された環境が魅力的だと言うお二人の言葉が伝わってきて、実際に行ってみたくなりました。
 後半の前田さんの講演は、得るものが多かったです。その中でも次の二つの言葉はすごく心に残りました。「筋道を大切にし表面の華やかさではなく芯を信じること」という言葉には、表面ばかりを気にせずにその本質や隠れているものを理解することが大切だということを学びました。また、「生活するということが建築に繋がる」という言葉は、物事に対する姿勢や考え方について深く考えさせられました。(織田麻衣子/㈲CBR)
●昨年に引き続き2シーズン目の参加をさせていただいた。前半のTNA武井氏、鍋島氏の作品を通しての共通の印象は「明るい空間」「連続した空間」であった。この明るいという意味には、大きな開口による採光や間仕切りの工夫による物理的な明るさと、その空間で過ごす人間に陰をつくる隙を与えないような、人と人のつながりが強められるような連続した空間からくる心理的な明るさがあるのではないだろうか。
 後半の前田氏の講演は、「建築道」ということから始まった。建築作品そのものではなく、建築に対する考え方がメインテーマであった。コンピュータを利用したアルゴリズム建築作品の話がメインになるのではという事前の私の予想は外れてしまった。しかし、「私が建築をつくる」という考え方を否定し、「自然(じねん)がつくる、委ねる」、そのためには「偶然を味方につけるシステム」=「ルールを設定する」という話の展開は、アルゴリズム建築に取り組む意図を聞いているかのような印象を受けた。コンピュータプログラムでの最適解が実際の生活や利用にとって最適であるかどうかはこれから分かってくるものであると思うので、情報を追いつつ自分も学んでいきたいと感じた。(松本 隆永/愛知工業大学)
●今回のセミナーで、TNAさんからは関係性の凝縮から新しい空間の獲得までの考え方のプロセスを、前田さんからはプログラムにより建築をつくりあげていくという考え方を学びました。
 TNAさんが〔都市と建築〕と〔自然と建築〕という二つのことが凝縮という過程を通ることで、違うものが同じようになる、とおっしゃっていました。そのことを踏まえて、改めてTNAさんの作品を見ると、敷地条件や、都市や自然との距離感など作品に応じてさまざまな事柄が凝縮されているなと感じました。また、TNAさんは都市と建築の距離や自然との建築の距離、都市と自然の距離を大切に考えて設計されているのだと思いました。
 前田さんの、部屋の配置をプログラムに任せることや、光をアルゴリズムで捉え、クライアントの記憶をパターン化させたという方法は斬新だなと思いました。しかし、プログラムにより部屋の配置を決めるということは、敷地の条件や気候など、建物を建てるときに必要なさまざまな条件は置き去りになっているような気がしました。
 今回のセミナーで学んだことを、これから自分が設計していくときに、少しずつ生かしていきたいなと思います。(岩崎絢子/豊橋技術科学大学)