保存情報第93回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) すいどうみち緑道 坂本 悠/有理社
 
新緑が覆う道が続く(いずれも帰路にて)
■紹介者のコメント
 名古屋市の水道は岩屋ダム、味噌川ダムの水源から南下、犬山の取水場より春日井の沈でん池を経由し、鍋屋上野浄水場で環境庁お墨付き「名水百選」の安全な水となります。そこから東山配水場など各地の施設へ送られ我々の家庭などへ給水されていますが、大正3年の給水開始以来、それらの配水管網の総延長は8,000㎞にも及ぶそうです。
 その配管は通常、道路の下を這っていますが、大口径の主管は買収用地に埋設されていて、庄内川左岸より今池まで6.9㎞の導水路用地が有効利用ということでほぼ整備、緑道化され
ています。
 私の帰路にある「すいどうみち緑道」は、今池から東山配水場まで約1.5km、平成6年の整備計画の完成部分4.9kmのゴール地点です。すでに桜並木は有名で、住宅地だけに静かに花見を、そして覆われた新緑が楽しめる、大好きな大人の道です。
 このような緑のベルトは小さいながら、景観だけではなく都市の温暖化を緩和する役割を大きく担っていて、もし8,000㎞がすべて、いやせめて1割でもグリーンベルトなら環境はずいぶん違い、まさに世界に誇る環境都市になっていたのではと思います。
 近年は、隣接地に共同住宅と店舗のセントラルガーデンが開発され、緑豊かな変貌したオシャレな街への一役を担っています。緑道の地下はもちろん名古屋市上下水道局の、地上は緑政土木局の管理となっていますが、周辺の環境が一変したばかりに緑道上の住民トラブルが増え、桜並木の維持管理費用も年々厳しく、緑政土木局にとっては上下水道局へ管理返還さえ考えざるを得ない現実のようです。大切にしたい市民の財産をしっかり守ってほしいものです。


所在地:名古屋市千種区
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 料理店 玉翠(ぎょくすい) 森口雅文/伊藤建築設計事務所

久屋大通正面
中庭 階段手すり窓
表札

所在地:名古屋市中区錦3-15-12
■発掘者コメント
 写真を見てあれっと思われる方が多くおられると思います。今回紹介しますのは、名古屋栄のテレビ塔の足元、久屋大通公園の西側にある料理店「玉翠」です。十数年前からJIA愛知のブリテン委員会は、(最近は東海支部会報委員会と合同で)毎年正月に歴代委員長を交えてここで編集会議と新年会を開催しています。今春、再開発と保存について話し合ったときに、三方高層ビルに囲まれたこの玉翠が話題になり、在来工法の木造で築60年と聞いて、何とかその由来を記録にとどめようと取材を申し出たところ、二代目当主 伊藤淳子氏が快諾してくださり今回の掲載となりました。
 保管されている確認通知書によりますと、敷地は、久屋大通りに面して間口約3間、奥行約15間で158.00㎡あり、第1期工事は久屋大通側に1949(昭和24)年11月、設計者 名古屋建築設計士会員 加藤新兵衛により、木造瓦葺2階建、延べ床面積94.4㎡が一般食堂付住宅として建築されています。第2期工事は1951(昭和26)年1月、設計者 吉水建築事務所 吉水和夫により、既設に中庭を介して敷地の奥(西)に増築され、延べ床面積195.46㎡。第3期工事は、1954(昭和29)年8月に第1期工事の東側、久屋大通に面した部分の増改築を行っています。延べ床面積214.14㎡で、設計者はJIAの大先輩である浜田建築事務所 浜田瑞穂であることが分かりました。
 料理店として建築され、周辺の開発には関わりなく、手を入れてそのまま使われ続けて60年、いまや周りとは若干趣を異にした佇まいが目にとまる存在となっていますが、当店の「かしわの味噌鍋の味」と「その建築」が今後どのように維持、保存されるかが気懸かりです。