JIA愛知建築セミナー2008「明日をつくる建築家のために」
シリーズ2「住まいと建築」第2回
長谷川豪氏、大野博史氏を迎えて
(川崎貴覚/川崎建築設計室)
JIA 愛知建築セミナー2008SERIES.2「住まいと環境」第2回は3月28日に長谷川豪氏、大野博史氏を迎えて行われました。
当初、長谷川豪氏に後半に講演していただける構造建築家を紹介していただくのと、できればその構造建築家とコラボレーションの時間を取っていただくことを提案しました。そして、若い構造建築家の中で活躍されている大野博史氏を紹介いただき、コラボレーションの提案もご両人から快諾をいただき、この日のセミナーが始まりました。
「風景に形を与えること、生活に形を与えること」 長谷川豪氏
 「竣工後と計画中の専用住宅4件と集合住宅1件」について話していただきました。「まずそれらの建物の建つ場所が違い、周辺環境が違い、その違いが建物の違いになっていても、自分の考えにはある一貫性があると思っていた。そしていつも住宅設計に際して大事に思っていることがある。住宅設計とは、もともとあった風景に何らかの形を自分の建築によって与えることだと思うし、建築は何かの形で住む人の生活にも形を与えるものだと思っている。そして、風景に形を与えることと、生活に形を与えることをできるだけ一致させたいと思っている」。
 このあとはスライドを見ながらお話をされ、「森の中の別荘」「桜台の住宅」「五反田の住宅」「狛江の住宅」「練馬のアパート」が紹介されました。
長谷川豪氏
「形の決定に構造的な理由を見出す」 大野博史氏
 まず最初に、大学時代から現在に至るまでについて話されました。
 「大学では建物を設計するとき、建物の形をつくるきっかけというものを見つけ出すことができなくて、形に対する責任をどのようにとっていけば良いのかずーっと分からなかった。しかし池田昌弘氏の講演会ではじめて構造建築家といわれる人の講演を聞くことができ、そのとき“目からうろこが落ちる”というか、このように建築の形が決まるんだというのを感じた。学生のときは構造建築家という職業があるのを知らなかったので、すべての形は建築家によって決められるものだと思っていたのだが、その建築の形を別の側面から説明する人がいることを初めて知って、池田昌弘建築研究所へ就職。現在は池田昌弘建築研究所から独立して5年経った。私の場合、構造計算だけをするのではなくて、積極的にプロジェクトの初期の段階から関わって、形を変えるというよりは形に対してどれだけ無理がないか、そこに特別な理由を見出せるかを考えながら設計に関わっている」。
 このあとはスライドを見ながらお話をされ、「(仮称)祐天寺プロジェクト」「キッチンのない家」「西海の家」「大竹の家」「行徳カルテット」が紹介されました。少し専門的な内容でした。
大野博史氏
< 対談>
長谷川 大野博史氏の作品を見ると結構一貫しているものがある。それぞれの物件での構造的な解決はむしろ何か新しいスタンダードを作ろうとしているような感じがして、すごく共感が持て、興味深い。構造の考え方のスタンダードとか新しいスタンダードみたいなものに対して考えがあれば。
大野 無条件にスタンダードとして受け入れられているものと、見つかっていないスタンダードというものがきっとあるのだと思う。構造設計は計算ばかりでなく、今までのディテールの中にも、考えられていない部分が多々あって、考えられていないディテールに対する検討方法もかなりあるのだけれども、その検討の前にそうではないディテールがあるのではというスタンスで検討するようにしている。そして、そこに今後スタンダードになりうるものがあるのではと積極的に考えるようにしている。
長谷川 私は、プライベート(住宅)とパブリック(街)の間にあるグラデーションみたいなものがあって、そこの可能性を見つけてゆくことで、プライベートとパブリックとの間にまだまだ可能性があることを示したい。このことと大野さんの考えているスタンダードと結構近いと思っている。
 
 このあと会場からの質問もあり、まだまだ続きました。
 長谷川豪氏の「桜台の住宅」は大変興味のある住宅でした。机の上に乗ってはいけないと言われて育った私には「テーブルを床として使う」という発想はなかったと思いました。しかし意味のない固定観念を払拭し、新たな可能性を見つけ、本当に施主の求めている快適な生活空間を提案し、これからも新たなスタンダードとして街と住宅の関係を変えていって欲しいと思います。
 長谷川豪氏と大野博史氏は大学のときの知り合いだということですが、まだ一緒に仕事をされたことがないそうです。しかし10年ぶりに会ったとは思えないほどすばらしいコラボレーションでした。ありがとうございました。
参加者の声
●長谷川豪さんの講演を聞くのは今回が2回目で、ちょうど1年前くらいに、今回と同じ建築作品についての講演をしていただきました。施主さんの家族のあり方や暮らし方、生活の中まで垣間見られるようなプレゼンだったように思います。住空間から施主の生活スタイル、まちとの関係性、そのまちに住む人との距離など外へと発信していく住宅になっていっているように感じ、1年前とはまた違う感覚を受けることができました。
 大野博史さんは今まで会ったことのない建築家の方で、新しい建築との関わり方や構造の強さを知ることができました。いろいろな建築家の下で、その建物に合った構造のあり方や材料を考え、提案する。難しいことだなと思いましたが、最後の建売住宅のような新しい提案が、建築家と構造家ともにあることでどんどん世の中に広まって豊かになっていけばいいなと思いました。
 私は今、学生で、論理的な思考でエスキスをはじめ1本1本紐を解いては結んで、それを最終的には建築という形にするところで、形や空間へと、どう変換したり結びつけたりしてゆけばよいのかよく分からず、大野さんが学生のとき悩んでいたことと同じ悩みにぶつかっているように思いました。私なりの答えを見つけるためにも、このJIA建築セミナーはすごく貴重な体験だと思っています。今回のお二方の講演を生かせるようにこれからも頑張っていこうと思いました。ありがとうございました。(河上千恵/豊橋技術科学大学)
●お2人の講演を聞き、今ご活躍の若手建築家の方々の作品、考え方などを知れたことがとても勉強になりました。
 長谷川豪さんが、風景に形を与えることと、生活に形を与えることを一致させることや、並び方がお施主さんの暮らし方になっているような一貫性を求めて設計しているとおっしゃっていましたが、自分はそのような一貫性をもって設計をすることができていないので、それを学ぶべきなのだと思います。作品では「桜台の住宅」に興味を持ちました。室内なのに中庭のような空間をつくり、内にも外にも開いている様子がとても新しいことだと感じました。
 また大野博史さんは大学時代は設計を学び就職してから構造の勉強を始めたとのことで、構造によって建築の形を別の側面から説明するというその考え方にはとても興味を持ちました。構造的理由を持たせることで建築の形を変化させることはとても面白いことで、構造家というものの楽しさを感じました。作品では「行徳カルテット」のRCの基礎を壁にしてその一部をずらし、ローコストに抑え、建売りをしたことに感銘を受けました。(都筑和義/豊橋技術科学大学)
●今回講演していただいた長谷川先生につきましては昨年の8月に行われた名古屋工業大学での講演につぎ2回目となったのですが、時間の経過とともに私の考えも多少深まってか、前回とは異なった印象と様々な経験を通して作品を感じることができ、非常に意義深い機会となりました。大野先生のお話を伺うのは初めてでしたが、作品の構造形式に目を奪われました。また両氏のトークセッションでは核心に迫りつつある中で時間の都合により講演会が終わってしまったことが非常に残念でしたが、今をときめく建築家と構造家の心中を垣間見ることができました。
 長谷川先生のスライドは今度もビジュアル的に美しいと感じました。終始おっしゃっていた周辺敷地の反復の中に新たに住宅を建てるという構想が、道路線の描かれていない配置図によって明快に示されていました。単純化されていながらも町にあるボリュームを的確に捉え、人の生活する場を創造しようとする手法に巧みさを感じました。しかしその感覚が最新のプロジェクトであった練馬の集合住宅には見られなかったので、そこにどういった経緯や考えがあるのかと興味がわきました。また庭面積の増加によって集合住宅としては高価なものになりかねないのではと様々な思いが巡りました。いずれにせよ周辺環境や庭との関係性から人の生活空間をつくることに独創性を感じ、住戸から集合住宅に展開しようとしている氏の活動に大きな関心と期待を寄せています。(兵頭李己/豊橋技術科学大学)