本部報告 建築家資格制度の課題

建築家資格制度本部実務委員会委員 森川 礼
 ここ数号の本誌の「理事会レポート」にあるように、理事会では建築家資格制度の進め方をめぐって熱のこもった議論が行われています。その先行きは不透明ですが、議論となっている事項について本部実務委員会の考えの一端を報告いたします。
■資格制度の目指すもの
JIAが本来目指すものは建築家法の確立ですが、長年にわたる先人の努力をもってしても実現できませんでした。この背景のもとで、建築家資格制度を構想し試行をするにあたって、半世紀の歴史を持つ建築士制度は鉄壁なものと意識され、その制度のなかに設計専門家を位置付けることが大きな目標とされました。試行⇒社会的制度⇒法制度という計画において、法制度=建築家法より法制度=士法改正と意識され、建築家法は士法改正後の先の夢とされていたと思います。
 しかし、鉄壁にみえた建築士制度は思わぬ事件の発生から大きな改編が迫られました。その検討の当初においては統括建築士といったJIAの主張に近い案も出ましたが、すぐに立ち消え、現在施行されている制度になりました。この経過から、実務委員会では士法改正による建築家資格の法制化は一段と難しくなったとの見方が広がりました。
 一方で、資格制度試行開始と同じ頃にスタートした建築基本法制定の運動がここに来て急展開をし、近年に法案上程を国交省が表明するまでになっています。この基本法は建築基準法や建築士法の上位に位置し、建築の理念を定め、それに関わるものの責任を示すとしていて、職能法確立の契機となる可能性を有しています。こうした情勢の変化を受けて、実務委員会は資格制度が目指す法制度は建築家法であることを再確認しました。このことは、士法改正を求めていくことを放棄することではなく、本来の目標を鮮明に掲げて進むべきと判断しているのです。
■オープン化の範囲
 実務訓練コースの参加者はJIA会員に限定されておらず、建築家資格制度は当初からオープンなものです。オープン化はJIA会員でない人の実務実績コースでの申請を可能にすることです。実務実績コースは資格制度発足にあたっての経過措置(既存建築家の移行措置)で時限的なものですが、オープン化にあたってはJIA会員ということで担保されてきた資格認定の要件を再確認して、再考しなければなりません。これについては昨秋の臨時総会で以下のように議決されました。
 第2号議案「建築家資格制度オープン化の基本方針」(抜粋)
 1.オープン化の範囲(申請書受理要件)
 2) 実務実績による申請:専ら設計・監理業務を、統括的な立場で、所定の期間、継続的に行ったことを客観的に証明できる者とする。
 2.審査・認定基準
 2) 実務実績による認定:審査・認定基準を現行より強化する。
 資格制度は規則に定めるようにUIA基準をベースとしており、プロフェショナリズムの4原則「専門性(Expertise)、自立性(Autonomy)、委任(Commitment)、責任(Accountability)」の保持が認定の基本条件となっています。建築家法がない日本の現状でこの基本条件の遵守には「独立性」が鍵となります。実務委員会では、「専ら」をこの「独立性」に基づくものとして、独立性の証明として申請者の所属する事務所の業務形態を問うこととしました。審査能力の実情から判定は業態外形によるものとし、その基準の作成を進めています。
■運営機関
 建築家資格制度が社会的制度となるにはJIAから独立した運営機関の構築が必要となります。昨秋の臨時総会の議決「資格の認定業務はJIA外の第三者機関が行うこととして、第三者性を担保する。また第三者機関からJIAに対して制度の運営・管理等に関する委嘱要請があった場合は、機関の社会的信任及び財政基盤が確立するまでの間に限定してこれを受ける」は、運営機関の独立を希求しつつも実現に高いハードルがあることを反映した内容となっています。
 「機関の社会的信任」は試行の終わった段階で成熟するはずもなく、資格制度の社会的信用はJIAの後ろ盾によってしか当面ありえません。表面的には独立会計が成り立ってはいるかたちですが、JIA組織が会計上に表れない負担をしているのが実態です。基金をもとに第三者機関の外形を整えることからスタートすることも考えられますが、今のJIAには拠出する財力はありません。そもそも社会制度段階での第三者機関移行は他団体と共同で運営が想定されていたのですが、現状ではその展望もまったく開けていません。
 実務委員会ではこうした現状をふまえて、運営機関の第三者化は段階的に進めるしかないとして、その方策を検討しているところです。