保存情報第91回
登録有形文化財 刈谷市郷土資料館 本田伸太郎/本田建築設計事務所
 
正面から見る 左右に張り出した特別教室
■紹介者のコメント
 刈谷市郷土資料館は、亀城小学校の建物を保存活用したものであって、大中肇の設計によります。大中肇は元愛知県営繕の技手で、刈谷に出向した折、そのまま刈谷に設計事務所を開設しました。刈谷を中心に西三河から知多にかけて、多くの学校建築や医院、住宅を手掛けています。
 この建物は昭和3年に旧刈谷藩校文礼館を前身に創設された、亀城小学校の本館として完成しました。建設地は旧刈谷城三の丸跡地で、校地の西側に南向きに建てられました。採光、換気に配慮し、窓はできるだけ幅広く大きくと、欄間も設けられています。そうしたいがためか、当時はまだ珍しかった鉄筋コンクリート造を用い、側壁長手方向、柱と外壁をRC造のラーメン構造にして水平力を負担させているように思います。2階建てですが床と屋根は木造となっています。屋根は瓦葺です。
 外観は正面玄関を中心にした左右対称で、両端を手前に出して、大きな妻面を見せています。中央の玄関よりも、両端を大きく突き出す外観は、西洋のバロック様式の流れをくむものです。玄関はバットレスを付けたポーチになっており、また正面外壁は柱型の所に亀城(カメキ)のキの字を遊び心でデザインしてあります。
 平面は南側に教室、北側を廊下とした片廊下式で、両端は大きく突き出して特別教室を配しています。全体的に重厚で整った威厳のある建物で、教育施設として素晴らしい建物と感じました。


所在地:刈谷市城町1-25-1 TEL0566-23-1488
開館時間:午前9時~午後5時 
休館日:月曜日、年末年始
登録番号:23-0021
交  通:名鉄刈谷市駅から徒歩15分 
     公共施設連絡バス小垣江線「司町4丁目」バス停
     から徒歩5分
登録有形文化財 墨会館 山上薫/山上薫建築事務所
墨会館。南から見る 東側アプローチ 玄関車寄せ
■紹介者のコメント
 これは愛知県で唯一の丹下健三作品である。一宮市(旧尾西市)の染色整理加工会社・艶金(つやきん)興業(株)の本社屋として1957年(昭和32年)に竣工し、50年を経た現在もそのまま現役で使用されている。2008年登録有形文化財に登録された。建物名称の“墨”は代々の経営者の名字である。敷地は同社工場西隣の道路に囲まれた台形の土地で、外周全面に塀を兼ねた壁を巡らせ、車寄せ部分のみ壁が切り取られている。ここの空間がユニークで魅力的である。
 車寄せに隣接する中庭を挟んで北側に2階建ての事務所棟があり、反対の南側に集会室棟がある。その頃の丹下作品は代表作の香川県庁舎に見られるように柱・梁のデザインに特徴があったが、墨会館の外観はそれらとは少し異なっている。藤森照信によれば、丹下は1956年4月から2カ月間の海外旅行でインドを訪れ、コルビュジェの最新作を見た。その影響で、帰国後の4年程に設計された10作品は壁に特徴があるデザインへと一変したが、草月会館や墨会館はその時期の作品なのだという。確かに外観からは閉鎖的な印象を受けるが、内部は中庭が効果的で、意外と開放的である。広々とした玄関ホールは、直階段の廻りが吹抜きになっており、大型のタイルや木と合板が壁や天井に効果的に使われ、気持ちのいい空間になっている。館内各所で天童木工のイスやテーブルが新築時そのままに大切に使われている。墨会館は、明快で力強く丹下らしい造形力が感じられる作品である。
 余談だが、同社ホームページには、「1946年昭和天皇の行幸を賜る、1955年皇太子殿下(現天皇)の行啓を賜る」とあった。

所在地:一宮市小信中島字南九反11-1
構  造:鉄筋コンクリート造平屋一部2階建 
    建築面積2,136㎡ 延床面積2,789㎡
建設年:1957年
登録番号:23-0308
参考資料 「丹下健三」(丹下健三、藤森照信著 新建築社 2002年09月刊)他