JIA愛知建築セミナー2008「明日をつくる建築家のために」
シリーズ1「地球環境と建築」第5回
中村康平先生を迎えて 〜金沢21 世紀美術館、中村邸ほか〜
(平野恵津泰/ワーク◦キューブ)
 JIA愛知建築セミナー2007に続く、JIA愛知建築セミナー2008シリーズ1も今回で無事最終回を迎えることができた。これも講師の方々、参加いただいた受講者の皆さん、セミナーを盛り立てた委員の皆さんのおかげです。ありがとうございました。
 12月6〜7日の宿泊見学会は、これまでにない企画満載なものであった。早朝集合も初めてのこと、講義が現地金沢で行われたことも、宿泊見学会の講師に建築家以外の方を迎えたことも初めての企画であった。早朝からの金沢に向かうバスツアーは順調に進行した。
 車中にて、今回の講師、陶芸家中村康平氏のドキュメンタリービデオを見て、受講者はまだ見ぬ先生に想いを馳せた。途中、福井県から石川県に抜けるころ、雪が舞い始め、雪の金沢とはなんと風情のいいことかと、みなの胸も高鳴った。
雪の金沢21世紀美術館
 金沢に着いて、最初はSANAAの金沢21世紀美術館の見学である。現場を担当された元所員の吉村寿博氏の引率にて、工事中の苦労やエピソード、担当したからこそ話せる貴重な逸話を聞けたことはとても有意義であり、刺激的でもあった。雪の金沢21世紀美術館は1度は見ておきたいと思っていたので、とてもいい機会であった。
雪の金沢21 世紀美術館 中村卓夫氏 中村康平氏
陶芸家 中村康平先生の講義
 宿泊先のホテルにて、中村先生の講義が行われた。生い立ちから学生時代、青年時代、現在と芸術に対して常に純粋な先生のエネルギッシュで若さあふれる講義であった。自分のためのものづくりという姿勢は、我々建築家とは一見違って見えるが、ものづくりという原点に返ってみれば、見習うべきところも多々あると思える話であった。
 夕食は、中村先生、引率いただいた吉村さん、金沢で活躍されている建築家、平口泰夫さん、ほかCAAK(Center for Art& Architecture, Kanazawa の略。金沢在住の若手美術・建築関係者によって結成されたグループ)で活躍されている方々にも加わっていただき、とても楽しい晩餐となった。
芸術家の施主2人と建築家
 翌日は、内藤廣氏設計の中村先生のご自宅を見学させていただいた。中村邸は次兄の中村卓夫氏(3代目中村梅山)と3男の中村康平先生の2棟建ての家であり、この2棟の間に割って入っているように、父、中村梅山の残した茶室が立ち並ぶ。施主として2人の芸術家と建築家、この状況で、なかなかうまくまとまるものではない。設計者の力量にも感嘆した。また、3者のやりとりは聞いている我々にも大変刺激的であり、興味深いものでもあった。また、茶室で芸術論を熱く語る中村先生の姿に心惹かれ、寒さも時間も忘れて聞き入ってしまった。中村先生の言う「王道を歩いてみようと思った」という言葉はきっと、先生のこれからの芸術活動での決断であり、自分の人生そのものの道筋でもある言葉ともとれるものであった。
雪のシリーズ1から初夏のシリーズ2へ
 金沢を離れ、途中、加賀市の中谷宇吉郎雪の科学館に立ち寄った。磯崎新氏設計の施設である。柴山潟に張り出したこの施設も、今回、冬のセミナーの締めくくりにはぴったりのものであった。
 次のシリーズ2は春から初夏のシリーズとなります。最終回の宿泊見学会は、初夏の京都です。今回のようにぜひ成功させたいと思いますので、皆さん、ご協力よろしくお願いいたします。
参加者の声
●初回の山本理顕さんから始まり、宿泊セミナーまで本当に勉強になり、貴重な時間を過ごすことができました。何より、学生のためにもこのようなすばらしい機会を与えていただきましたことと、お世話をしていただいたJIAの皆さまに感謝いたしております。ありがとうございました。
 多数の建築家の講演の中でも、私は山本理顕さんのお話がとても印象に残っています。今学部3年で、ちょうど研究室を決める時期にさしかかっていました。自分がどのようなことをこれからやっていきたいのか、興味があるのか少し悩んでいたこともあり、山本さんの新しい「地域社会圏」についての話はすごく刺激的なお話でした。今までとは違って新しい建築のあり方を知ることができて、これからの自分の方向性が見えてきたような気がしました。
 また、最後の宿泊では、内藤廣さんの設計した住宅の中に入ることもでき、また冬の金沢を解説つきで歩き観光することができておもしろかったです。そして何より、同年代の人だけでなく普段あまり接することのない年代の建築家の方々といろいろなお話させてもらうことができ、とても勉強になりました。社会勉強にもなりました。
 建築セミナーに参加して本当によかったです。ありがとうございました。(河上千恵/豊橋技術科学大学)
●最初の目的地「金沢21世紀美術館」では妹島和世事務所元スタッフの吉村氏からお話を伺いました。特に技術的なことについてお聞きすることができました。また、11月のセミナーで長谷川裕子氏から「金沢21世紀美術館」がどのような流れでつくられたのか聞いておりましたので、見学にあたっては、いかに来場者参加型のプランニングがなされているか、いかにリピーターを意識したプランニングがなされているのか、注意して見学することができました。レアンドロ・エルリッヒ「スイミング・プール」は見逃してしまいましたが、パトリック・ブラン「緑の橋」やジェームズ・タレル「ブルー・プラネット・スカイ」などは、ずっと見ていてもなぜか見飽きることなく、機会があればまたゆっくりと見学したいと思いました。
 その後の中村康平氏の講演会も興味深いものでした。「アーティストは意見が作品である」という言葉を聞き、自分自身の「生活のための仕事」とは決定的な違いを感じました。翌日の中村康平氏・卓夫氏の自邸の見学でも、厚み30㎜ジャラのリブフローリングや、パーティクルボードに漆を塗った床、炭を混ぜた漆喰の壁、作品を載せたときに作品が引き立つように考えられたカウンター収納家具など、内装の随所にアーティストである施主のこだわりを見ることができました。
 帰路では磯崎新設計「雪の科学館」も見学することができ、充実した内容のセミナーでした。
 最後に、JIA愛知の建築セミナー委員会の皆さまに御礼を申し上げます。ありがとうございました。(佐藤のりこ/インテリアプロデュースaqua)
●今回セミナーに参加して一番印象深かったことは、建築分野ではないところでした。特に陶芸家である中村康平先生の話でした。先生の学生時代は過激でとてもエゴイストなものでした。芸術部門は自分のしたいこと、つくりたいものだけを考えてやっています。
 今、学校で習う建築は周りにどう影響するかや、コミュニティなどを第一に考えることを優先します。僕もセミナーを受ける前までは自分のやりたいことを曲げてでも周りのため、人のための建築をつくるべきだと思っていました。
 しかし先生の話を聞いて僕はもっと建築が自分のエゴイスティックなものになっていいと思いました。今、芸術部門でも活躍している若手の建築家はたくさんいます。これからは、理屈ではなく芸術的で感性に訴えかける建築をつくっていくべきだと今回のセミナーに参加して気付くことができました。
 また、さまざまな建築家と交流もでき、とても身になるものになりました。ありがとうございました。(杉山純平/豊橋技術科学大学)
●金沢は、あられまじりの雪。元妹島建築事務所の吉村寿博氏の説明により、金沢21世紀美術館を見学した。
 第2回のセミナーで長谷川祐子氏(現東京現代美術館)がチーフキュレーターとして手腕を振るわれた経緯を講演で聞いていたので、理解がしやすく、現代アートと建築が見事に一体化した空間を体験できた。当美術館の展示室は均一なユニバーサル空間ではなく、様々な平面形で天井高の異なる「間」からなる。これが一定高さの通路空間で結ばれることで、空間演出は劇的となる。美術展は作品展示のための壁づくりにコストが掛かり過ぎるという実情を逆手に取った建築構成がそのまま建物の形をつくり出している。建築の専門家のつもりで空間を見ていたら、いつの間にか、展示作品そのものと深く対峙させられて、一鑑賞者になっていた。
 セミナーの最終講演では、陶芸家中村康平氏の引き込まれるような独白による自己作品の分析に心を震わされた。1人の作家の軌跡が頭の中に深く刻まれ、今なお熱い余韻が心地よい。(山本和典/久米設計)