保存情報第90回
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 岡崎市郷土館(旧額田郡公会堂 旧額田郡物産陳列所) 渡邉 勇/ユウコウ建築設計事務所
旧公会堂外観 旧物産陳列所外観
■発掘者のコメント
 この建物は大正2年(1913)に額田郡公会堂・額田郡物産陳列所として建てられたもので、平成11年12月1日に国の重要文化財に指定されています。現在、旧公会堂は郷土館の本館棟として歴史資料が展示され、旧物産陳列所は収蔵庫として活用されています。
 旧額田郡公会堂は建設当時の姿をほぼそのまま保っています。大正5年に岡崎市誕生に伴って、額田郡から岡崎市に譲渡されたルネサンス様式の建物は、当時では岡崎一のモダンな西洋館でした。集会所施設としてはかなり早い時期のものであったと考えられます。内部は展示室としている講堂のほか、中央に玄関ポーチ、東西両端に控室と貴賓室、講堂東側に通用玄関と控室、さらに渡り廊下を経て東端に便所棟を設けています。各所に西洋建築を取り入れた和洋折衷の優雅なつくりが見られます。内部は漆喰塗りの大壁や天井飾り、舞台背後のギリシャ式建築様式となるドリス式円柱と楕円アーチなど、とくに左官仕事に多くの見どころがあります。
 旧物産陳列所の収蔵庫は、内部は大きな広間一室からなり、外観は四つ葉のクローバー型の花窓が特色で、同じ年に建てられた本館とはかなり異なったモチーフになっています。

郷土館の石柱

重要文化財に指定されている物件
旧額田郡公会堂1棟
(木造平屋建・桟瓦葺 建築面積532.6㎡)
 附 棟札1枚 銘札 1枚
(公会堂下請人及従業者連名表)
旧額田郡物産陳列所1棟
(木造平屋建・桟瓦葺 建築面積175.8㎡)
 附 門柱 1所


所在地:岡崎市朝日町3丁目36番地1
竣工年:大正2年(1913)
参考文献:岡崎市郷土館資料
データ発掘(お気に入りの歴史的環境調査) 又日亭(ゆうじつてい) 塚本隆典/塚本建築設計事務所
又日亭外観 鎧飾台 洞床
■発掘者コメント
 毎年行う大学の研究室の同窓会が、恩師の体調が回復されたこととあわせて豊田市美術館敷地内の童子苑で行われることになり、それが又日亭を知るきっかけとなりました。
 又日亭は「豊田市郷土資料館だより」によりますと、「もと寺部領主渡邊半蔵家の居城内にあった書院と茶席で、渡邊家10代規綱公の設計と考えられており、名称は規綱公が雅号を又日庵と称していたことにちなんでいます。竜寿院にありましたが、昭和52年に老朽のため解体されることになり、これを豊田市が譲り受け復元したものです。書院には床・押入が付き、さらに全国的に見ても希少な例である鎧飾台が設置されています。
 茶席は床の横に炉が切られた向切の席で、床と琵琶台とが兼ねられた洞床となっており、これも茶人好みとなっています。
 渡邊家は、徳川家康に仕えた渡邊半蔵守綱を初代とする家で、江戸時代になって尾張藩の付家老を命じられ、以後豊田市寺部町に陣屋を置いた家系です。
 又日庵の実弟玄々斎が裏千家に養子し、11代家元となったことも影響して茶道に造詣が深い所以です」とあります。
 また、昭和美術館内にある南山寿荘は江戸時代末期、尾張藩家老渡邊規綱によって名古屋市の尾頭の堀川端に建てられた別邸の一部で、後藤幸三により、後藤家の別邸として移築されたものです。
 私も豊田市内の設計事務所に入所した折に、数年間、所長のお宅で茶道のお稽古をさせていただきました。そのときから豊田市と裏千家とのつながりに興味を持っておりましたが、今回の調査でその一端をのぞけたようです。
※執筆にあたり豊田市郷土資料館の天野氏のご協力を頂きました。


所在地:豊田市小坂町8丁目   
参考資料:「豊田市郷土資料館だより」NO.46、 50その他